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第1話
大学を卒業して、2年がたったある日。
仕事も少しは慣れてきて、頼ってくれる後輩もできた頃。
一通のメールが届いた。
まゆぽん☆
To : 坂口 仁 ▼
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やっほー☆
仁くん久しぶり~!元気してる??
久々に映画研究会で
集まりたくて連絡しました☆
今度の金曜なんてどぅかなー?
まゅ☆
この、たった一通の可愛らしいメールで、おいしく飲んでいたコーヒーの味はどこかに消えていった。
簡単に"まゆ"という人と俺の関係性を説明すると、大学の映画研究会で一緒だっただけの人。
まゆぽん先輩は、大学で一位二位を争うほど、可愛いと有名だった。
少しクセのある栗色の髪をクルクルしながら話すのがクセで、不思議と嫌みはなく、その姿が可愛いと評判だった。
そんな人と、映画研究会で出会い、なぜか気に入られて学校中を振り回された。
そのおかげで俺の大学生活は充実していて、毎日大勢とバカ騒ぎして授業が眠くてつらいことが、また楽しかった。
そして、そこまで楽しくさせてくれたまゆぽん先輩を好きになるにも、そう時間はかからなかった。
いつも明るく、先輩がいるだけで元気が出る……それだけで、毎日満足してしまっていた。
1年だけしかないと思っていた歳の差は、先輩のいなくなった1年を、ものすごく長く感じさせた。
連絡をしても、返ってこなくなったメールアドレスは、消せなかった。
毎日していたバカ騒ぎをつまらないと思うようになり、毎日のようにムシャクシャしていた。
もうアレから、特別に楽しいと思えたこともなく、今はただ生活に支障が出なければいいとだけ思っている。
先輩と会えなくなって3年がたった今、また連絡をもらえる日がくるとは思わなかった。
映画研究会の集まりに、淡い期待をもって、まゆぽん先輩に返信をした。
さっきまであったコーヒーの湯気が、いつの間にか見えなくなっている。
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