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第2話

「仁くん、ぼーっとしてどうしたの?」 ハッとして声がする方を向けば、小柄な女性が心配そうな表情でこちらを見ていた。 見た目は可愛らしいが、とてつもなく鋭いこの人は、この会社のお局様。 「今週末、久々に大学時代の集まりに呼ばれたんですよ」 「あら〜昔好きだった人がいるとか?」 「あはは、やめてくださいよ~ただのサークル仲間です」 本当にこの人は……びっくりするほど鋭くて、思わず、合っていた目をそらした。 「仁先輩!何のサークルに入ってたんですか?」 「映画研究会だよ」 丁度いいタイミングで、後輩が飛び込んできた。 いつもやたらと話しかけてきて、正直面倒な後輩だが、今日はその面倒が良い方向にいった。 あのまま、お局様と話してたらと思うと、少し鳥肌がたつ。 「えー!あの映画撮って上映会とかしちゃうやつですか?」 ただ、映画研究会の話題はそこまで広がらない。 なぜなら、誰もが想像する『あの映画撮って上映会とかしちゃうやつ』ではないからだ。 「……やってたことって、それだけですか?」 映画研究会の話をすれば、いつもこれだ。 もう聞き慣れた。 「そうだよ。ただ好きな映画を皆で観てただけ」 本当に、ただ映画を観るだけのサークルに所属していた。 国民的アニメを持って来たり、空飛ぶSFを持って来たり、ベッタベタなラブストーリーを持って来たり、誰も映画の趣味が合わなくて楽しかった。 映画を観るだけではなく、遊びに行くのも日常茶飯事。 それを全部楽しく感じていたのは、隣にずっと、先輩がいたからだ。 毎日が、輝いていた頃。 「会社終わりにでも、一緒に映画観ましょうよ〜」 「もう映画はあんまり観ないんだ、きっと他の人と観た方が楽しめるよ」 映画は、今では思い出として好きでいる。

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