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【ファンノベル】「羅生門の境界」転生パロディー2【加地トモカズ様】

一年生の寮は学舎から少しだけ遠いところに建っていた。 もともとは全学年、この寮を昔は使っていたこともあり、赤レンガ造りの蔦が蔓延り、年季がある。 前は希望者のみの寮だったが、十年ほど前に全寮制へ変わったため、二年生用、三年生用は新しく建てられた。そのためか、この一年生の寮だけは古い。 「靖久君。今、帰り?」 振り向くと一足先に帰っていた様子のクラスメイト、若丸がそこに立っていた。 「若丸、ただいま。ここで何をしてるんだ?」 「転入生が来るらしくて、案内するために待ってるんです。けど、まだ来なくて……もうすぐ生徒会役員選挙があるから、その打ち合わせに行かないといけないんだけど……」 選挙管理委員の若丸が困ったように眉毛を八の字にする。 選挙なんてしなくても、生徒会長はレイなのに……口先まで出かかった言葉を靖久は何とか抑える。 「だったら、俺が案内する。若丸は委員会に行くといいよ」 「いいの?ありがとう!それにちょうど良かった。その転入生、君と同室なんだ。色々教えてやって。それじゃ!」 若丸は最低限のことだけ伝えると、手を振って学舎の方へ走っていった。 それにしても、こんな四月の終わりに転入生がくるなんて、珍しい。 陽もだいぶ傾いてきた。 もしかして、迷ってるのかもしれない。 寮の門を抜けて、桜並木の坂道を下ると、黒髪の少年がしゃがみこんでいるのを見つけた。 「君……大丈夫か?」 声を掛けると、青白い顔をした少年が靖久を見上げた。 「もしかして、転入生か?」 こくりと少年が頷いた。 だいぶ体調が悪いらしい。 「歩けるか?」 しゃがみ込んだまま何も返事をしない。 靖久は仕方ないと思い、その場にしゃがんで、少年に背中を向ける。 「おぶってやる。乗れよ」 背を向けていたから表情は分からないが、少し躊躇って、靖久の背中に乗ったようだった。 少年が持ってきたトランクを手に取り、坂を上がっていく。 一年生の寮ということは靖久と同じ年齢ということだが、体が軽い。 寮に着き、談話室に行くと寮母の凛さんがいた。 「凛さん。転入生、連れてきた」 「あら、具合悪そうね。お水持ってくるから、ソファに寝かせてあげて」 少年を寝かせ、さっきまで青白かった頬に少し赤みが戻ってきた。 「ん……ここは……?」 少年が目を開き、辺りを見渡す。 茶色の瞳が靖久を捉えた。 「目が覚めたか。ここは羅生門学園高等部の寮だ」 「寮……」 「ルームメイトの滝原 靖久だ。君は?」 「俺は……青成(せいじょう)」 「せいじょう?変わった苗字だな」 青成はふるふると首を振った。 「苗字じゃない。名前」 「名前か。なんて書くんだ?」 ベルベットのソファに青成は指で文字を書く。 赤いベルベットはその赤よりも赤い文字を浮かび上がらせた。 「青に……成るっていう字」 「へぇ……青は好きな色だ。いい名前だな」 青成は茶色の瞳が零れそうなほど見開く。 靖久は、そんなに驚かせるようなことを言っただろうかと疑問に思いながら、「荷物、持っていくからな」と青成の荷物を二階の部屋に持っていこうと談話室を出ようとした。 「あ、滝原くん……ありがとう」 ふわりと笑う青成の顔を見て、靖久は虚をつかれる。 「……あぁ」 談話室を出て、扉を閉める。 靖久は口元を手で隠し、ぽつりと一言。 「……かわいい」 青成の調子も良くなったらしく、靖久は部屋に案内した。 横に立つ青成をちらりと盗み見る。 頭一つ分低い背たけ、真っ黒な髪、人形のような白い肌……さっきの笑顔もかわいいと思ってしまった……男なのに。 「ここが俺たちの部屋。洗面台と風呂は左側にある。俺は気にしないから好きな時間に入って。寝室は奥にあって、俺は左側のベッド、君は右側のベッドを使って。食事は下の食堂で食べて。朝食は六時から七時半まで、夕食は六時から八時まで。この間に食べに行ったらいいから。ちなみにテレビは談話室にしかないけど、ラジオなら俺持ってるから、聴きたかったら貸してあげる」 一通り説明すると、青成が靖久のベッドの上のスケッチブックに視線を注いでいる。 「この風景……綺麗だ」 「美術部なんだ。風景を描くのが好きで、よく色んなところで描いてる」 「人は描かないの?」 「うーん……課題でしか描いたことないな。風景の方が好きなんだ」 しばらく、スケッチブックを見ながら色々話をしていると、青成が「風呂に入りたい」と言い出した。 今日は少し暑かったし、汗をかいたのかもしれない。 「あぁ、ゆっくり入ってくれ」 青成はすぐに風呂場の方へ入っていった。 靖久はベッドに寝転びながら、ラジオに手を伸ばした。チューニングを合わせながら、面白い番組があるか探した。 そういえば、バスタオルの場所とか教えてなかったような気がする。 もう風呂に入っただろうか。まぁ、男同士だし、別に声をかけてもいいか。 「おーい。青成、バスタオルなんだけど、上の棚に置いてあるの新しいから使って……」 靖久は少しだけ脱衣場の扉を開けると、体が固まった。 隙間から見えた青成の姿は、先程の黒髪と茶色の瞳と変わり、金髪碧眼の西洋人形のような美しい少年になっていた。 じっと隙間から見ていた靖久の視線と青成の青い目がぶつかった。 お互い、数秒見つめ合い、青成は急いで両手で目を隠した。 青い目を見られたくないのか。 「青成」 靖久は青成の細い手首を握り、顔を覆った手を解いた。 見られないように、瞼は固く閉じられている。 金色の睫毛が細かく震える。 「目を開けて」 「嫌だ……見られたくない……」 「何故?」 「……変だろ。こんな目」 ゆっくり開かれた瞳は縹色の美しい瞳だった。 海の色よりも、空の色。 鳥たちが自由に飛び舞う、春の空の色だ。 「綺麗だ」 気づけば、靖久は青成の瞼に静かに唇を落としていた。 終

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