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【ファンノベル】「羅生門の境界」転生パロディー1【加地トモカズ様】

鐘が鳴った。 白亜の学舎から大勢の学生が出てくる。 白亜の建物とは真逆の真っ黒な詰襟を上まで止め、学帽を被った学生達は「今日の晩御飯は何だろう」「数学の微分がさっぱりだ」「漢詩はやはり杜甫が良い」など、学問を修める若く明るい声が散ったばかりの青葉がまじる桜の間から聞こえてくる。 そんな中、黒い詰襟の学生服を肩にかけながら、まだ解禁されていない夏服の白シャツを着た一人の学生が寮に戻ろうと校門に向かって歩いていた。 さぁ、いざ帰ろうと門を潜ろうとすると、「そこのお前!止まれ!!」と竹刀を振り回す小柄な少年が現れた。 その竹刀をすっと避ける。 「避けてんじゃねーよ!」 「弥生先輩。こんにちは。何か御用でしょうか」 小柄な少年、いや、この羅生門学園高等部二年生の弥生は、ぶんぶんと悔しそうに竹刀を振り回す。 「何か御用でしょうか、じゃねー!靖久、お前、何で勝手に夏服着てんだよ!まだ解禁してねーぞ」 「あぁ、これですか?絵の具が飛んでしまって、仕方なく夏服を着ているのです」 靖久は学帽を取り、困りながら頭を掻いた。 長身で男前だが、どこか飄々としていて表情が読めない。 「まだ解禁していない制服を着るのは校則違反だ!風紀を乱す者は、風紀委員長である俺が許さねぇ」 小柄な身ながら、剣道の全国大会で優勝するほどの腕の持ち主。 鋭い竹刀で風紀を叩き直すその姿は鬼のようだと噂されている。 「いや……これは一応、許可を貰っているんですが……」 「許可だァ?誰の許可もらってんだよ」 「それは……」 靖久が正直に言おうとすると、「弥生、靖久」と二人の後ろから声が聞こえた。 「レイ!」 手を振る所作にも滲み出る優美な雰囲気。 歯を見せず、美しく笑う口元は秋の夜空に浮かぶ弓のような月を思わせる。 「何を言い争いをしているんだ?」 レイと呼ばれた美しい男子学生は、首をかしげながら、二人に近づく。 弥生はすぐにレイに近寄ると、靖久の方を指さした。 「レイ!靖久が校則違反をしていたから、取り締まってたんだ。まだ解禁していない夏服を着てる!」 「あぁ……いいんだよ。弥生。靖久は学生服を汚してしまったから」 レイは自分よりも頭二つ分低い弥生の頭を撫でながら、宥めた。 「弥生、生徒会長である僕が許可を出したんだ。だから、大丈夫」 「むっ!?そうなのか?!」 だから、そう言おうとしたのに……と靖久は心の中で首を竦めた。 弥生とレイ、そして靖久は、幼なじみで、幼等部からこの羅生門学園に通っている。 しかもこの学園の理事長は、レイの父親であるから、レイはこの学園では王様も同然。 皆がレイを慕いながらも、逆らわぬようにしていた。 レイの側近のように付き従っているのが、弥生。 風紀委員として、学生を取り締まるその姿は「風紀の鬼」と呼ばれている。 そして、二人より一学年下の靖久は、貿易会社の社長の息子で、レイの父親と靖久の父親は無二の親友。 その縁があって、レイと靖久も仲がいい。 「ちゃんと許可はもらってるので、このまま寮に帰っていいですよね?弥生先輩?」 「何だよ……そうならそうって言えよな」 疑いが晴れたことを確認して、三人で寮に帰る。 寮は学年別で別れているため、途中で弥生とレイと別れた。 「それじゃあ、レイ先輩、弥生先輩、さよなら」 「あぁ、また明日ね」 「じゃーな」 挨拶を済まし、一旦寮へ帰ろうとするも、ちらりとレイと弥生の背中を見た。 成長期を迎えているはずの弥生の体は小さく、レイはスラリとした身長。 幼い頃から同じように育ちながらも、同じように成長はしないようだ。 二年生の寮に着き、真っ先に弥生とレイは部屋に戻る。 「はぁ~。今日も疲れたぜ……」 弥生はバフっとベッドに倒れ込んだ。 その様子にレイはくすくすと笑う。 「ねぇ、君、いつまで男の振りをするつもり?」 「いつまでって……卒業するまで」 「高等部は男子と女子が別れるから嫌だ、男としてそのまま高等部に行くなんてワガママいうから何とか父上も誤魔化して高等部に入れてもらったけど、来年も誤魔化しながら生活していくのはきついよ?」 弥生の頭を撫でる。 小さい頃から、弥生は男のように振舞っていた。 それは、レイと対等に扱って欲しかったからだ。 対等に扱ってほしい気持ちは今も変わらない。けれど、体が男としてではなく、女の体に変わっていく度、また違う気持ちも芽生えてきた自覚もあった。 「……レイは、男にもモテる。それがいけないんだ」 「え?」 ぼそりと呟いた言葉はフカフカの枕に吸い寄せられ、レイの耳には届かなかったようだ。 「なんでもないっ!」 弥生は不貞腐れたように唇を尖らせた。

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