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紫音くんとももちゃんのお正月
※「紫音くんを探して」の番外編でございます。読んでない方も是非♪
1月1日の朝7時、ベッドから抜け出し、ひんやりしたフローリングの上を歩きながら、冷蔵庫からお茶を出す。
それを一気に飲み干す。
冬は乾燥するから、喉が乾くな。
寝室に戻ると、隣には寝癖のついた黒髪が見える。すやすやと可愛い顔をして寝ているその人は、9つ上の男性だ。
中森桃也 。
身長は168センチ、体重49キロ、年齢28歳。色白で目がクリっとしている。俺のかわいい奥さんです。
…俺が勝手に奥さんって言ってるだけだけど。
名前に「桃」が入っているため、普段は「もも」と呼んでいます。
出会いは中学三年生。ももは、俺が通ってた塾のバイトだったんだけど、元カレの借金返済のため、援助交際(しかも男相手に)してた。その借金を肩代わりして恋人になりました。
その過程で色々あったけど、今は相思相愛、ラブラブです。
「んぅ…紫音 くん…?」
とろんとした目で俺を見ている。
本当に可愛い。
あ、名乗るのを忘れていましたが、俺は花森紫音 。
大学1年生で、金髪に紫の瞳のハーフです。そして、ももの旦那(自称)です。
「おはよう。もも」
「もう、朝…?まだ眠いよ…」
「もう少し寝てていいよ。朝ごはん、俺が作るし」
俺が、ももの頭を撫でて、ベッドから出ようとすると、ももは俺のTシャツの裾をつかんで、「もうちょっと…一緒にいよ?」と瞳を潤ませながら、恥ずかしそうに言った。
きゅんとしながらも、俺は「今日は初詣に行くから、早く準備しなきゃ」と伝えた。
「初詣…?寒いから行きたくなぃぃ…」
ももは布団を頭からすっぽり被った。
「ダメだよ、寝正月は。朝食の準備してくるね」
「うぅ…。じゃあ起きる…」
布団からちらりと顔を出して、アーモンド型の目で俺を見ながら呟いた。
オープンキッチンに立ち、冷蔵庫から卵とベーコンを取り出す。あ、玉葱もあったなぁ。
買っておいたロールパンを軽くトースターで焼き、フライパンでベーコンをカリカリに焼く。その上から卵を落として目玉焼きを作った。
ロールパンを皿にのせて、ももの大好きなイチゴジャムを小皿に出す。
目玉焼きも皿に盛り付けて、プチトマトを付けておいた。
あとは、小さい鍋に水をいれて沸騰させて、玉葱を半分に切ったら、薄くスライスする。沸騰したお湯にスライスオニオンを入れて、固形のコンソメを溶かして、オニオンスープの出来上がり。
お揃いのマグカップに注いで、「はい」とももの前に置いた。
ももは、マグカップを両手で持って、ふーふーも冷ましてちびちびと飲んだ。(ももは猫舌)
「紫音くんは、何でもできるからいいよね」
「何でもなんて、言い過ぎだよ」
ももは口を尖らせている。
「僕が奥さんじゃなくてもいいんじゃない?」
今日はちょっと機嫌が悪そう。
俺には何となく心当たりがあった。
「何でそんな意地悪なこと言うの?」
心当たりはあっても、知らないふりをしてみた。
こんな可愛く怒ってるもも、久々に見たからだ。
「初詣だって、友達と行ってこればいいじゃんっ」
あー…やっぱり怒ってるんだ。
12月31日、年越しパーティーをしようと先輩や友だちに誘われ、少し付き合うことにした。
クラブのようなところを貸しきって、パーティーをしており、皆ノリノリだったが、俺は早く帰りたくて仕方なかった。
やっぱりももと年越しをしたかったからだ。
俺は夜の10時くらいに、適当な理由をつけて帰った。
タワーマンションの最上階について、鍵を開けると、暗いリビングでももがクッションを抱きながら、お笑い番組をじっと見ていた。
「もも…遅くなってごめんね?」
「………年越しパーティー、楽しかった?」
ももはクッションに顔を埋めながら、聞いてきた。
「やっぱりももと年越ししなきゃって思って…」
「それで、帰ってきてくれたの?」
ももが俺を振り返った。
目が赤い。泣いてたのかな。
「…年越しそば」
ももはうつ向きながら呟く。キッチンを見てみると、蕎麦とネギ、あげとかまぼこが置いてあった。
「そば、作ってくれようとしてたの?」
「うん…。でも、食べてきたでしょ?」
「そんなに食べてないから、お腹すいてるんだ。…作ってくれる?」
俺はうつ向いているももを覗きこむようにしてお願いしてみた。
ももはこくりと頷いた。
一緒に年越しそば食べた後は、テレビのお笑い番組を見て、年越しをした。
その後は一緒にお風呂に入って、そのまま新年一発目の営みをして、眠った。
許してくれたと思ったけど、甘かったか…。
最近友達付き合いが多くなってきたため、以前よりももと過ごす時間が少なくなっていた。
「俺はももとお正月過ごしたいなって思ってたんだけど」
俺はめげずにニコニコと話しかける。
「……本当に?」
「本当に」
「……じゃあ、初詣一緒に行く」
コンソメスープをすすりながら、ももはやっと頷いてくれた。
朝食をとると、俺たちは身支度を整え、俺の車で都内でも大きな神社に行くことにした。
30分走り、駐車場に停めると、振り袖を着た女の子や、お守りを納めにきた人、様々な人たちが鳥居を潜り、神様に新年の挨拶をしに来ていた。
「やっぱり人、多いねー」
ももは人の多さの驚きながら、はぐれないように俺のコートをちょこんと摘まんでいた。
そういうのも可愛いんだけどさ。
俺はももの手を握った。
「ちょ…っ紫音くん!人がいるし、恥ずかしいよ!!」
人目を気にして、ももは慌てている。
何も気にすることなんてないのに。
「誰も見てないよ」
「でもぉ…」
ももはオロオロしており、足元も何やらおぼつかない。
「じゃあ、こうする?」
繋いだ手を、俺のポケットに突っ込んだ。
「これなら直接見られないでしょ?」
「うん…」
ももは、赤くなりながら小さく頷いた。
可愛い。本当に誰にも見せたくない。
まぁ、実際外出とかさせてないし。
赤くなってるももが可愛すぎて、ちょっとイタズラをしたくなった。
繋いだ手をポケットの中で、ももの指に自分の指を絡ませた。いわゆる、恋人繋ぎというものだ。
その後、ももの指の間を撫でたり、爪を触ったり、とにかくももの手を触りまくった。
ポケットの中はもぞもぞと動いている。
ももをちらりと見てみると、耳まで真っ赤になりながら、うつ向いている。
「なんか、手でエッチしてるみたいだね」
俺はももの耳元でそう囁いてみた。
「じ、神社で、そういうこと、言っちゃダメなんだよ…」
「ごめんね」
俺は恥ずかしさで震えているももを目で楽しみながら、本殿に向かった。
本殿まで、5列くらい横に広がり、長い列をなしていた。
待つこと20分。
やっと自分達の番が回ってきた。
5円玉を入れて、二礼二拍手し、お願いをした。ちらりと横目でももを見てみる。
何やら一生懸命お願いをしている。
(ももと同じ願い事だといいな)
そう思いながら、自分もお願い事をした。
神社を出ると、お祭りのような出店が並んでいた。
せっかくなので、歩いてみることにした。
「あ!ベビーカステラ!」
ももはベビーカステラの出店を見つけるとキラキラした目で見つめていた。
食べたいらしい。
俺はその出店に行って、12個入りのベビーカステラを買った。
「僕が払うからいいよ!」というももの言葉を無視して、俺は自分のお金で支払った。
「僕もお金持ってるのに…」
「お詫びだから、いいよ」
「お詫び?」
「年末一人ぼっちにさせた、お詫び」
「………もう許してるから、いいのに」
ももはベビーカステラの袋を抱えながら、もぐもぐとベビーカステラを食べていた。
「もも、一生懸命お願いしてたけど、何お願いしたの?」
「そういうのは言ったら叶わなくなるから、言わないっ」
「えー…俺はねぇ」
と俺が願い事を言おうとすると、むぎゅっと口にベビーカステラを押し込められた。
甘い。蜂蜜が入っているらしい。
「だから、言ったらダメだって!」
「叶わなくなる?」
「そう!それに…」
ももはもじもじしながら、ぽつりと言った。
「もし、紫音くんと僕が同じお願い事してたら、叶わなくなるの嫌、でしょ」
尻すぼみになっていく呟きは、祭りの喧騒に打ち消されそうになっていたけど、俺の耳は不思議と聞き逃さなかった。
「もも、大好き」
俺はももの肩を引き寄せながら囁いた。
声は聞こえなかったけど、口の形で「僕も」と言ったことが伝わった。
『ずっと、ももと幸せに暮らせますように』
終
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