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第1話

「トリックオアトリート! お菓子くれなきゃイタズラするぞ」 「……そっか、そんな日だっけ」  パソコンに向かって打ち込みしていた彼は、こちらを向いて気だるそうに返す。 「ちょっと! せっかく仮装したのに何その反応」 「いやぁ、俺が子供の頃は日本じゃそういうイベントなかったなぁって」 「ふーん」 「あと『Trick or Treat』。前から思ってたけど、純って発音苦手だよね」 「今そんなこと言わなくてもいいじゃん! 試験じゃあるまいし」  むうっと頬を膨らませて黒いマントを手繰り寄せれば、彼はクスッと笑って俺の腰を引き寄せた。 「Treat me or I'll trick you.」 「へ……?」 「『もてなせ。さもなければ、お前を惑わせて酷い目に合わせるぞ』」 「っ!」  突然耳元で低い声で囁かれ、背筋がゾクリと震えて後ずさる。 「これって、もともと悪霊を追い払う儀式でさ――」  そう言って長くなりそうな解説をし始めた彼の口を手で塞ぐ。 「そういうのいいよ。何で普通に楽しめないの?」 「ふふ。……それは吸血鬼?」 「そう、だけど」 「可愛いね。……それで? 生憎お菓子を持ってないんだけど、イタズラって何するつもり?」  彼は楽しそうにスーッと目を細めると、腰に回した手でぐっと自分の方へ引き寄せ、俺を膝の上に乗せた。

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