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いじわる彼氏とハネムーン 491
「そういうの、やだ」
「ほんとに?」
「……ばか」
ニヤリと口角を上げて聞いてくる彼の顔に、ムラッとくるから困ってしまう。胸がドキドキして、指先が震える。下腹部が熱くなって、瞳がじわりと潤む。
彼は楽しそうに笑うと目の前にしゃがんだ。目をスーッと細めた意地悪げな顔は心臓に悪い。
「そういうこと言うならお仕置きかなぁ」
お仕置き、という言葉に腰骨の奥がぞくりと震える。
「や、だ……」
散々彼に抱かれていじめ尽くされた体は、期待で蕩けるように力が抜けた。それを彼に知られるのは恥ずかしくて、首を左右に振って拒絶する。
けれど、彼はそんなことお見通しのようで「どうしたい?」と優しく言って首を傾げた。
「っ……」
「じゅーん」
低く掠れた甘ったるい声で名を呼ばれれば、たちまち彼に抗えなくなってしまう。誘われるように口を開いて、震える声で小さくぽつりと呟く。
「~~っ、……えっち、したい」
いつもとは違う南国の雰囲気に開放的になっていたのかもしれない。素直にそんな言葉が出たけれど、ニヤニヤした彼の顔を見て、しまったと思った。
「やっぱ、いい」
「いいの? 車の後ろ、シート倒せるよ」
「い、い」
羞恥心がこみ上げてきてカァァと顔が熱くなる。
「でも、それ収めた方がいいんじゃないの?」
「っ……だけど、せっかくの旅行なのに……全然観光してない、し……今は、しない」
「───仕方ないなぁ。ほら」
正和さんはそう言うと羽織っていたウィンドブレーカーを脱いで着せてくれる。彼の服は大きいので、チャックを閉めれば前も隠せそうだ。
「……ありがとう」
「でもその代わり、ホテル戻ったら覚悟してね」
「そんな……!」
思わず目を見開くと正和さんはクスクス笑って立ち上がり、俺の手を引いた。
強引だし、理不尽なことばかりしてくるし、正和さんはとってもいじわるだ。だけど、それ以上に優しくて、ちゃんと気遣ってくれるから憎めない。
「……正和さん」
「ん?」
「……大好き、だよ」
「ふふ、どうしたの突然」
彼は目をスーッと細めて楽しそうに笑うと、額にちゅっとキスを落として甘い声で囁いた。
「愛してるよ、純」
いじわるだけど、優しくて。そんな彼のことが大好きだから、これからもずっと一緒にいたい。
いや、一緒にいるのだろう。ずっと。
お互いの左手薬指に嵌まった真新しい指輪が、陽の祝福を受けてキラリと光った。
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