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いじわる彼氏とハネムーン 490

* * * 「────っ」 「正和さん大丈夫?」 「大丈夫なわけないでしょ」 「……やっぱやめる?」 「ちょっと黙って」  パラセーリング当日。ハーネスをつけ終えてフライトする準備は整ったが、青ざめた顔をした正和さんは俺の隣で何かぶつぶつ言っていた。ボートのモーター音でよく聞こえないけれど、おそらく大丈夫、大丈夫、と自己暗示をかけているのだろう。  パラセールがふわりと広がり、ハーネスに接続されると、彼は口をぽかんと開けて、目をパチクリさせる。不謹慎だけれど、今までにないくらい面白い顔をしていて思わず吹き出しそうになる。棒をぎゅうううっと握り締めている正和さんは、なんだか少しだけ可愛く見えた。  ふわっと体が宙に浮いた瞬間、彼は魂が抜けたみたいな表情になり、少しだけ心配になったが、あっという間に高くまで上がってボートが小さくなっていく。  風が気持ち良くて、自由になった気分でとても心地よい。 「うわ~、景色綺麗だよ!」 「…………」 「正和さん、下見ちゃダメだよ」 「わかってるよ」  風の音で正和さんの小さな声はかき消されてしまうが、彼も少しだけ余裕が出てきたのか、あるいは放心状態なのか、遠くの景色をぼんやり眺めている。 「思ったより高く上がるんだね!」 「……怖いの?」 「ううん、凄く楽しい!」  そう答えれば、彼は少し引いたような顔をする。  スマホで辺り一面の景色を動画に収め、内カメラにして海と山を背景に正和さんと二人で写真も撮った。  正和さんには悪いけど、とても楽しかったから、やっぱりやって良かったと思う。  しばらくして空中散歩が終わると、正和さんはだいぶ疲れた様子で船内の椅子に横になっていた。きっとかなり無理をさせてしまったのだろう。  一度ホテルに戻って着替えなどを済ませた後は、車を借りて彼の運転で、島内を一周する事になった。  苦手なものが終わったからか、すっかり元気になった彼は、余裕の表情でカッコつけている。ように見える。 「見て見て」  目的地について車から降りると、タタタッと彼の近くに駆け寄り、歩きながら話しかける。 「なに?」 「正和さん凄く変な顔してるー」  先ほどのパラセーリングしている時の写真を見せれば、正和さんは眉を顰めて、対抗するようにポケットからデジカメを取り出した。 「──ほら見て」 「なに……っ!」 「よく撮れてるでしょ」 「消して!」  そこに映し出されたのは、昨日のえっちな水着を着た姿で、カアアと顔を赤くしながらデジカメに手を伸ばす。しかし、彼は「やだね」と言ってすぐにポケットにしまってしまった。 「いつ撮ったの!?」 「内緒。可愛い純はちゃんと残しておかなきゃ」 「……変態」 「へえ? じゃあ、変態は変態らしくしないとね」  彼はそう言って、俺の腰に腕を回し彼の方に引き寄せると、耳たぶを厭らしく指先でなぞる。正和さんによって開発されてしまったそこは、少し触られただけで、ぞくぞくっと震えて、反射的にその場にうずくまった。

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