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序章 ~忍び寄る気配~
ここは私立桜氷 高等学園。男子校で都内屈指の進学校でもある。
俺、相楽純 はこの高校に通う二年生で、一ヶ月前まではごくごく普通の高校生活を送っていた。
それなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう。
現実を受け止められなくて、ここ一ヶ月はずっと頭がぼんやりしたままだ。
「――明日から二週間の秋休みとなるが、ちゃんと勉強するように」
休暇中の過ごし方や課題の配布など長々としたHRが終わり、先生が教室から出て行くと、途端に教室内は喧騒に包まれて、生徒たちはどこへ遊びに行こうか楽しげに話す。そんな中、帰り支度を済ませていた俺は、スマホで求人情報をチェックしながら教室を後にした。
「純、ごめん! やっぱ今日演劇あるから一緒に帰れない」
そう言って教室の出入り口から顔を覗かせたのは、同じクラスで親友の小林拓人 。
「あーうん、大丈夫。部活頑張って」
「おう、またなー! 純もバイトがんば~」
そんなやり取りをして、再び廊下を歩き出し、階段を下りる。
自宅までは徒歩二十分。家のすぐ近くには、地方から来た学生の為の寮も完備されており、そこに住んでいる拓人とは一緒に登下校することも多い。だが、最近は演劇の発表が近いとかで、一緒に帰ることはめっきり減った。
したがって、今日も一人で帰ることになるのだが、その足取りは重い。
バイト、増やさないとな……。
というのも、俺には三五〇〇万円の借金があって、返済しなきゃならない。それも銀行からの融資ではなく、漫画やドラマに出てくるような闇金といった悪質な高利貸し業者だ。
もちろん、学生の俺がそんな多額の借金をするはずもなく……、元は父さんのものだった。父さんが経営する会社の資金繰りに窮して、借り入れたもので、その会社は既に倒産している。
両親は……というと、一ヶ月前、俺が学校にいる間に、どこかへ行ったきり音信不通だ。その翌日には怖いおじさんたちが来て、そのとき初めて借金の事を知らされた。
家族は他に、昨年からアメリカに留学中の兄ちゃんもいるが、俺は嫌われていてもう五年くらい口もきいていない。もしかしたら両親もそこにいるのかもしれないが、連絡の取りようがなかった。
両親から何も知らされていなかったので、俺は売られたも同然だろう。もともと母さんからは凄く嫌われていたから、そんなものなのかもしれない。
そんなわけで、いつの間にか三五〇〇万円の借金は全額、俺が返済しなくてはならない事になった。それも今月末までに。
幸い、と言うべきか、情けとやらで、利息はこれ以上つかないことになったが、どちらにしても短期間で返せる額ではない。
高校生の俺にとっては馴染みのない大金……、事実としては認識しているが、あまり深刻に考えていなかった。というより、どうしようもできない。
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