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第114話

「じゅーん」  唐揚げを揚げ終わってお皿に盛り付けると、後ろから声をかけらた。箸を持ったまま彼の声がする方へ振り向くと、カシャッ、とシャッター音が響いて体を硬直させる。 「え……」  少し離れた位置にいる正和さんは、手にカメラを持っていてニヤリと笑った。 「ご飯作ってくれたの?」 「あ、うん。唐揚げとサラダと、ご飯も炊けて……」 「ふふ、ありがとう。……女の子みたいなピンクのエプロンつけてるんだ? 可愛いね」 「っ……」  揶揄(からか)うような言い方に恥ずかしくなってきて、頬が赤く染まる。  誘惑して悶々とさせるはずだったのに何かがおかしい。正和さんはいつもの余裕の表情で、ニヤニヤと笑みまで浮かべ、完全に形勢逆転している。 「ちょっと裾、捲ってみてよ」 「な、なんで……」 「油跳ねてるみたいだから足とか火傷してたら困るでしょ」 「だ、大丈夫。なんともないよ」 「良いから。捲って」  強めの口調で言われて身が竦む。おずおずとエプロンの裾をまくり、お腹の位置まで上げれば、カシャッ、カシャッ、カシャッ、と続けざまにシャッター音が響いた。 「正和さんっ……」  捲った瞬間に、カメラをこちらに向けてシャッターをきった正和さん。突然の事にエプロンをギュッと握り締めて彼の名を呼ぶ。 「思ったより可愛い写真が撮れたよ」  正和さんは俺に近付くと「ほら」と言ってカメラをこちらに向け、先ほど撮った写真を見せてくる。顔を赤くしてエプロンを捲る姿は、厭らしいビデオに出てきそうだ。  裾を持って上げた為、エプロンがたるんでショートパンツが隠れており、下を穿いてないように見える。 「消して……!」 「何で? 俺の為に着てくれたんでしょ?」 「ち、違っ――」 「違う? やっぱり女の子みたいな格好が好きなの?」  首を左右に振ると、正和さんは俺の腰に手を回し、後ろで結んである紐を解いてエプロンを外した。 「今度可愛い服、たくさん買ってきてあげるね」 「っ……いらない」 「さ、早く食べよう。せっかく作ってくれたのに冷めちゃうよ」  そう言って、彼は俺の作った料理をリビングに運ぶ。呆然と立ち尽くしていたら、戻ってきた正和さんにまた写真を撮られた。 「そのパンツも凄い可愛いよ」  正和さんは俺の頭を撫でたあと、手を引いてリビングの方へ歩き出す。テーブルには今朝と同じく隣同士で座るよう皿が並べられており、席に着くように促されて腰掛ければ、当然正和さんも隣に座った。 「本当可愛い脚」  正和さんは太ももに手を置くとゆっくり撫でてくる。 「ひゃっ……正和さんっ」 「ん~?」 「お、お触り禁止って……」 「変な触り方じゃなければ良いって言ってたでしょ」  俺の内股を付け根から膝の近くまで何度も撫でられて、ゾクゾクッと背筋を這い上がっていくような感覚に身震いした。 「純も今朝こうしてたじゃない。あれは変な触り方だったの?」 「違、う……」 「じゃあ純は脚を撫でられただけで感じるヤラシイ子なの?」 「っ、やらしくなんか……」  正和さんのことを睨み付けると彼は目をスーッと細めて口角を上げた。ニヤリと笑ったその顔を近くまで寄せられて、正和さんから顔を背けると耳に息を吹きかけられる。 「胸元もこんなに開いた服着て……襲われるの待ってたんじゃないの?」  耳元で囁くように問いながら、胸元の服を下に引っ張る。慌てて胸を抑えると正和さんはクスッと笑った。 「これ、は……正和さんが喜ぶと、思って……」 「ふふ。じゃあ、お触り禁止が終わったらまた着てね」  正和さんはいつも通りの澄ました顔に戻り「いただきます」と言って、ご飯を食べ始める。 「うん、美味しい。作ってくれてありがとね」  俺は赤い顔のままドキドキして震える手で箸を持ち、食べやすい温かさになった唐揚げを頬張った。  正和さんはあの後も耳元で囁いたり、俺の指を撫でたりと、罰に触れない程度に攻めてきた。  ドキドキしっぱなしで翻弄(ほんろう)されていたら、ようやく仕事に行く時間が来たらしく『行ってきますのチュー』というのを額に残して出て行った。  確かに正和さんの言う通り、これでは俺の方が耐えられないかもしれない。

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