114 / 494
第114話
「じゅーん」
唐揚げを揚げ終わってお皿に盛り付けると、後ろから声をかけらた。箸を持ったまま彼の声がする方へ振り向くと、カシャッ、とシャッター音が響いて体を硬直させる。
「え……」
少し離れた位置にいる正和さんは、手にカメラを持っていてニヤリと笑った。
「ご飯作ってくれたの?」
「あ、うん。唐揚げとサラダと、ご飯も炊けて……」
「ふふ、ありがとう。……女の子みたいなピンクのエプロンつけてるんだ? 可愛いね」
「っ……」
揶揄 うような言い方に恥ずかしくなってきて、頬が赤く染まる。
誘惑して悶々とさせるはずだったのに何かがおかしい。正和さんはいつもの余裕の表情で、ニヤニヤと笑みまで浮かべ、完全に形勢逆転している。
「ちょっと裾、捲ってみてよ」
「な、なんで……」
「油跳ねてるみたいだから足とか火傷してたら困るでしょ」
「だ、大丈夫。なんともないよ」
「良いから。捲って」
強めの口調で言われて身が竦む。おずおずとエプロンの裾をまくり、お腹の位置まで上げれば、カシャッ、カシャッ、カシャッ、と続けざまにシャッター音が響いた。
「正和さんっ……」
捲った瞬間に、カメラをこちらに向けてシャッターをきった正和さん。突然の事にエプロンをギュッと握り締めて彼の名を呼ぶ。
「思ったより可愛い写真が撮れたよ」
正和さんは俺に近付くと「ほら」と言ってカメラをこちらに向け、先ほど撮った写真を見せてくる。顔を赤くしてエプロンを捲る姿は、厭らしいビデオに出てきそうだ。
裾を持って上げた為、エプロンがたるんでショートパンツが隠れており、下を穿いてないように見える。
「消して……!」
「何で? 俺の為に着てくれたんでしょ?」
「ち、違っ――」
「違う? やっぱり女の子みたいな格好が好きなの?」
首を左右に振ると、正和さんは俺の腰に手を回し、後ろで結んである紐を解いてエプロンを外した。
「今度可愛い服、たくさん買ってきてあげるね」
「っ……いらない」
「さ、早く食べよう。せっかく作ってくれたのに冷めちゃうよ」
そう言って、彼は俺の作った料理をリビングに運ぶ。呆然と立ち尽くしていたら、戻ってきた正和さんにまた写真を撮られた。
「そのパンツも凄い可愛いよ」
正和さんは俺の頭を撫でたあと、手を引いてリビングの方へ歩き出す。テーブルには今朝と同じく隣同士で座るよう皿が並べられており、席に着くように促されて腰掛ければ、当然正和さんも隣に座った。
「本当可愛い脚」
正和さんは太ももに手を置くとゆっくり撫でてくる。
「ひゃっ……正和さんっ」
「ん~?」
「お、お触り禁止って……」
「変な触り方じゃなければ良いって言ってたでしょ」
俺の内股を付け根から膝の近くまで何度も撫でられて、ゾクゾクッと背筋を這い上がっていくような感覚に身震いした。
「純も今朝こうしてたじゃない。あれは変な触り方だったの?」
「違、う……」
「じゃあ純は脚を撫でられただけで感じるヤラシイ子なの?」
「っ、やらしくなんか……」
正和さんのことを睨み付けると彼は目をスーッと細めて口角を上げた。ニヤリと笑ったその顔を近くまで寄せられて、正和さんから顔を背けると耳に息を吹きかけられる。
「胸元もこんなに開いた服着て……襲われるの待ってたんじゃないの?」
耳元で囁くように問いながら、胸元の服を下に引っ張る。慌てて胸を抑えると正和さんはクスッと笑った。
「これ、は……正和さんが喜ぶと、思って……」
「ふふ。じゃあ、お触り禁止が終わったらまた着てね」
正和さんはいつも通りの澄ました顔に戻り「いただきます」と言って、ご飯を食べ始める。
「うん、美味しい。作ってくれてありがとね」
俺は赤い顔のままドキドキして震える手で箸を持ち、食べやすい温かさになった唐揚げを頬張った。
正和さんはあの後も耳元で囁いたり、俺の指を撫でたりと、罰に触れない程度に攻めてきた。
ドキドキしっぱなしで翻弄 されていたら、ようやく仕事に行く時間が来たらしく『行ってきますのチュー』というのを額に残して出て行った。
確かに正和さんの言う通り、これでは俺の方が耐えられないかもしれない。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!