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第116話

 十一月八日。あと二週間もしたら文化祭だなあ、なんて思ってたら正和さんはどこかへ出かけた。行き先も告げずに出て行ったので、少し不安になったが、二十分程で戻ってきて、手にはケーキ屋さんの白い箱を持っていた。 「どうしたの? 突然」 「純と同棲して一ヶ月が経つでしょ? だからお祝い」  正和さんはニコリと笑って靴を脱ぐと俺の頭を撫でる。 「同棲って……最初の二週間監禁だけど」 「そう言うこと言わないで。ほら、夕飯にしよう」  正和さんは俺の悪態もクスッと笑って受け流し、キッチンへ行く。俺も後をついていき、箸を並べたり、ご飯をよそったりと手伝って、二人で向かい合って席についた。 「乾杯」  オレンジジュースの入ったグラスで乾杯して、美味しそうなチキンを食べる。マリネやグラタン、揚げ物、どれも美味しくて頬が蕩けそうだ。 「ほんと、幸せそうな顔して食べてくれるから作り甲斐があるなあ」  そう言って嬉しそうに微笑む正和さん。そんなにわかりやすい顔をしているんだろうか。  いつもより少し贅沢な食事をした後は、デザートにショートケーキを食べた。とても美味しくて、幸せな気持ちのまま片付けを終えて、歯磨きした後、部屋に戻る。  しかし、正和さんは突然仕事に行くと言い出した。苦情を言う客が手に負えないんだそうで、帰りも遅くなるだろう……との事。  少し寂しいが仕事ならば仕方がない。 「行ってらっしゃい」 「先に寝てて良いからね」  正和さんを玄関で見送ったら、彼は唇に軽くキスを落として出かけて行った。俺は薄着だったから外気がスーッと入り込んできて身震いする。この時期の夜風はとても冷たく、まだ夏からの温度変化に慣れていない体は真冬よりも寒く感じた。  正和さんの部屋に行きベッドに横になる。 「ん、正和さんの匂い……」  彼の匂いに包まれて、抱き締められているような気分になった。掛け布団を顔に押し当てて深呼吸するように匂いを嗅ぐと、ドキドキしてきて、キュンとお尻が疼く。  それと同時に、正和さんに厭らしく攻められる光景が頭に浮かび、顔がポッと赤くなった。  妄想と言うのも普通のエッチな妄想とは違って、絶対人に言えるようなものではない。こんなことを考える自分も恥ずかしいが、気持ちは抑えようがなかった。  この変な願望を持つようになったのはちょうど一週間前。スマホでネットサーフィンをしていて、アダルト動画の広告バーナーを興味本意でクリックしたのが始まりだった。  動画の再生ボタンを押すと、女性が縛られたまま玩具や鞭を振るわれていて、最初は嫌がっていたのに、最後は気持ち良さそうに声を漏らして潮を吹いていた。  そんな動画を見て以来、自分をその女性に置き換えて、正和さんにその行為をされているという妄想が止まらないのだ。  男優が正和さんと少し似ていたからと言うのもあるし、正和さんに罰を言い渡して二週間、そう言う行為がないから欲求不満というのもある。 (こんなこと……絶対に正和さんに言えない)  下半身へ手を伸ばすとそこは既に硬くなり始め、パジャマのズボンを軽く押し上げていた。  さすがに二週間溜まっているとつらい。

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