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第160話
正和さんはゴムなどの後処理をして、衣服を正すと俺の下着を掴んでじっと見る。
「どうする? 純のパンツベタベタだけど」
「――――」
「履かなくてもいっか」
「えっ……」
正和さんはお好み焼きを買った時の袋に俺の下着とタオルハンカチをしまった。これから借りた衣装を返しにいくのに、ノーパンでどうしたら良いんだろう。
ズボンならまだしもスカートだ。もし、何かの拍子に中が見えて、下着を身に付けていないのがばれてしまったら……と思うとゾッとする。
文化祭だから女装に関しては好奇の目で見られるだけで、誰も何も言わないだろう。しかし、下着を身に付けていないとなれば、ただの変態だ。
「……正和さん、パンツ貸して」
「やだ」
「良いじゃん! 正和さんズボンなんだし!」
「スカート履いたのもパンツ汚したのも純でしょ」
「そんな……」
(……酷い)
スカート履かなかったら怒るくせに。パンツ汚させたのも正和さんなのに。
口を尖らせて正和さんの事を睨んでいると、彼は柔らかく微笑んだ。
「ふふ、でも俺優しいから純のやつ返してきて、着替え持ってきてあげても良いよ?」
「本当に!?」
「うん。でも純、パンツも肌着も着てないから、俺が行ってくる間は全裸でここに待つ事になるけど」
「っ……」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて「どうする?」なんて聞いてくる。
(どこが優しいんだ……)
このままノーパンで教室まで戻って着替えるか、正和さんが着替えを持ってくるのを全裸で待つか。
正和さんの事だから直ぐに着替えを持ってきてくれるとも限らない。わざとどこかに寄り道してくるんじゃないかとさえ思う。
「……いい、自分で行く」
「そう? 誰かにスカート捲られたりしたら大変だね」
正和さんは可笑しそうにクスクス笑って、扉の方へ歩いていく。
「そんな事するなんて正和さんくらいでしょ」
「そうかもね」
そう言って目を細める正和さんを見ると、自分で言った事に少し不安を感じた。
(まさか本当にしたり、しないよな……?)
「ま、俺以外にされたら許さないけど」
正和さんがぼそりと呟いたのは聞き流し、彼の三歩後ろをついて行く。この距離ならば捲られることもないだろう。
ガラガラッと教室の扉を開けて廊下に出る正和さんに続き、俺も廊下を歩く。スカートの裾を下に引っ張るように押さえながら、いつもよりも小さめの歩幅で。
女装しているせいか、周囲からたくさんの視線を感じてとても恥ずかしい。
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