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第16話

「このご本?」 「そうだよ」  本のタイトルは「狼と七匹の子山羊」だ。  ページをめくって中を覗くと、漢字と片仮名にはふりがなが振ってあったので、真理はホッとした様子だ。 「読んでみて」  零夜が床に腰を降ろして優しく促すと、真理は初めての音読にドキドキしながら読み始めた。 「おーかみ、と、しちひきのこやぎ」  緊張しているせいか本を持つ真理の手は少し震えているし、時々、声も掠れる。けれど、一生懸命読んでいるのは零夜にもちゃんと伝わっていた。 「──そこへおおかみがやって、きました。おおかみはがらがらごえ、で『おかあさんよ』と言い、ました」  緊張は最初よりなくなったものの、まだ完全になくなったわけではない。しっとりと汗ばんで震える手を叱咤しながら、真理はゆっくり読む。決して聞きやすいとは言えないけれど、零夜はそれを嬉しそうに聞いていた。 「──すごい上手だったよ」  途切れ途切れになりながらも全てを読み終えた真理の頭を、零夜はよしよしと優しく撫でる。その感触に、真理は気持ちよさそうに目を細め、褒められたのが嬉しかったのか頬を紅潮させた。  そのまま優しく抱きしめられてトクンと胸が高鳴る。じんわりと温かなものが広がっていく感じがして、真理は胸が幸せでいっぱいになった。 「今日はお客さん来るけど、お利口にしてられるか?」  零夜は受け取った絵本を本棚に戻しながらそう言って、真理のことをチラッと見る。 「お客、さま……?」 「ああ」  すぐには理解できなくて、真理がそのまま聞き返せば、零夜は優しく頷いて言葉を続けた。 「二人来るんだけど、一人は真理と同じくらいの年の子だよ」  その言葉に真理の胸はワクワクと高揚する。 (僕と、同じくらい……どんな子なんだろう)  今までは自分と同じ所に居た男の子しか見たことがない。ソトからは大人の男女しか来ないので、真理が同年代のソトの人と会うのはこれが初めてになる。 「いい子にしてられるか?」  真理は目をキラキラと輝かせて、その問いにこくこくと何度も頷く。 「いい子にする!」  元気よく返事をした真理は、今にもぴょんぴょんと飛び跳ねそうな雰囲気だ。  だが、真理はふと考える。  零夜が自分を捨ててその子を選んだりはしないか、と。

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