73 / 120
第73話
あきくんが食後の紅茶を淹れてくれて、茶菓子に母さんからの卒業祝いの贈り物に入ってたチョコを頂く。
“Happy Graduation”ってロゴの入った包装紙は、沙綾ちゃんのお母さん、しほりおばちゃん経営のアパレル会社と有名チョコレートブランドとのコラボギフトのものだ。
いくつか種類があるんだけど、これは品の良いハンカチとトリュフがセットになったやつ。
俺も去年 沙綾ちゃんから貰ったけど、俺のは可愛い爽やか系のハンカチと生チョコのセットだった。
やっぱトリュフも美味しいな。ここのチョコ、どれもすんごい美味いんだよなぁ。もぐもぐ。
「で、十碧ちゃんは、いつ自分がゲイだって気付いたの?」
「え?………えっ⁉ゲ…、なっ…!?」
トリュフをひとつ摘みながら さらっと。
まるで「お寿司頼むけど十碧くんはワサビ平気?」って訊いてくれた時のお父さんと同じノリで、お母さんにとんでもない事を訊ねられた。…気がする。
「母さん、十碧がビックリしてるから。もっとオブラートに包んで」
「えー?まだるっこしい事キライ」
は…、ははは・・・……、はぁ……
「子供の頃からなんとなく…で、そうじゃないのかなって悩んだのは、中一の頃です。てか俺、分かりやすいですか?」
「そうね。女の子になりたい訳じゃなさそうなのに、好きな男からの可愛いに拘るところ。思春期の男の子なんて逆に、男っぽく見られないことが気になる年頃なのに。これは生粋のネコちゃんかなって。女の勘ね」
そりゃあ……怖いです、女の勘…
「責めてる訳じゃないからそんな顔しないで。私自身バイセクシャルだから、理解はあるつもりよ。安心なさい」
「っ!……あ、はい…」
そんな……そんな爆弾発言までさらっと…!
「そもそも私、可愛い系のが好きなのよね。特に女の子がね。
昔は中高一貫制の女子校に通っててね、女子校の王子様みたいなことやってたのよ。可愛い子たちに囲まれて、お姉様って呼ばれてね」
幸せだったわぁ…、と昔を懐かしむお母さん。
「あ、…それはなんか、分かります」
長い四肢、整った容姿。
陽成さんによく似たその眼差しで、あきくんみたいにふわりと優しく微笑んだら……
女子校の後輩たちがバッタバッタと倒れていく様が目に浮かぶ。
「高三の時、付き合っていた後輩が居て、……いざ卒業ってなった時。どうしよう、って思った」
「…どう…しよう…?」
「…うん。このまま付き合い続けていていいのか、別れた方がいいのか。
今は女子校の狭い檻の中で、女同士互いに愛しいと想い合っているそれは当たり前の光景だけれど、いざ広い世界に放り出された時、それは普通じゃなくなる。周囲の目も、もしかしたら自分にとっても、……彼女にとっても」
聞いたことある、女子校のお姉様制度。
男子校に王道生徒会とかファンクラブがあるのなんかはBLの物語の中でだけのお話で。だけど女子校には本当にモテる女子ってのがいるらしい。
バレンタインにいっぱいチョコレートを貰ったり、部活の試合に沢山のファンが応援に来たりって。
うちの学校じゃ男同士付き合ってるなんて稀だけど、きっと、お母さんの行ってた女子校じゃ普通にあることだったんだろうな。
「悩んで、苦しんで、そうしてる間に私は、彼女の事を全然構ってあげられなくなってて…ね。ただでさえ受験で会う時間も限られていたのに、一緒に居るときすら上の空。
結局、彼女の方が堪えられなくなって、フラレちゃった。悲しかったけど、何処かでホッとした自分が居たのも本当の話」
ともだちにシェアしよう!