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第75話

例えば鞍馬と付き合ってた頃は、親の前でイチャイチャするとか絶対無い!って思ってた。 鞍馬が付き合いを内緒にしろって言ってた所為もあるのかな? でもそうじゃなくても、あんまり近い距離には入らないようにしてた。 父さんはともかく、母さんはそもそも鞍馬にいい顔しなかったしさ。 だけど あきくんと居る時はそうじゃなくて。 うちの親の前でも、認めてくれたあきくんのご両親の前でも、離れてなくて構わないのかなって。 受け入れられてる気がして。 引き寄せられるままに、あきくんの膝に静かに収まった。 それを見て、眉を一瞬上げてニヤリと笑ったお母さん。 微笑ましく、ってよりか、寧ろ揶揄うような空気を感じないでもない…… なんかさ。うちもだけど、あきくん家も強いよね、お母さんって。 沙綾ちゃん家も、壮太兄ちゃん家もお父さんニコニコでお母さん強いし。 そうだ!ここに、お母さん家庭で最強説を唱えよう!(←そんな家庭ばかりな訳がない) 「じゃあさ、父さんとはなんで結婚した訳?女の子じゃないどころか、可愛い系でもないよね」 ツッコミ要員だった陽成さんが、ふとお母さんへと視線を向けた。 「ああ~。それがね、」 返すお母さんは、なんだか渋い顔。 「忙しくしてる間にいつの間にか髪が伸びててね、私すっかり王子様じゃなくなってたのよ。そうしたら女の私なんてただの超絶美女じゃない?」 「はい」 「うん、そこはツッコむ所だからね、十碧ちゃん」 「なんでやねん!」 「はいどーも。でね、大学に入ったら異様に男にモテだしたわけよ。可愛くもない男に」 肩を竦めたお母さんは今も超絶美魔女で。だから求められてツッコミは入れてみたけど、やっぱり超絶美女って言葉はオーバーじゃないんじゃないかなぁ…って思う。 だって、超絶美女と超絶美形の両親からじゃないと あきくんみたいな超絶王子様は生まれないだろうし! 「で、あの子のことも忘れられないし、罪悪感で恋愛する気分になれない、でも男の扱い慣れてないしで、そのうち断るのも面倒になってね…。付き合うのは無理だけど、社長になったら結婚してあげるって返事するようになったの。  それ聞けばまあ、大概の男はあしらわれてるって気付くし、偏差値高い私立大だから将来的に本当に社長になる人も居るかもしれないけど、その時まで私を好きでいるなんて有り得ないじゃない?」 おおっ…!モテる女、カッコイイな! 「社長になったら結婚してあげる」か。 俺も一回言ってみ…たくないです、俺にはあきくんだけです、だからそんな見なくても感じるプレッシャーを……って振り返ればジト目って!ナニコレちょー可愛い! てか、なんであきくん、俺の考えてることちょいちょい読み取れんだろ。 もしかして俺、気付かない間に口に出してる…? 「で、那弦(なつる)もその内の一人だったんだけど」 那弦さんってのは、あきくんのお父さんの名前。 ちなみにお母さんは千芙由(ちふゆ)さん。 家族4人で『春夏秋冬(はるなつあきふゆ)』になるんだって、さっき教えてもらった。 「この人 大学のひとつ先輩でね、一度来たきり顔見せなかったから諦めたとばかり…と言うか、もうすっかり忘れ去ってたのよ」 「こんな綺麗な人を!?」 若かった頃のお父さんなんて、更にあきくん似で堪らん美形だったろうに!! 「あはは、そうそう、こんな綺麗な人を」 つい乗り出した身をすぐさまクイッて引き戻されて、お母さんに笑われた。 「ところが2年の終わり頃、またひょっこり現れてね、社長になったから結婚してください!って」 「純愛だ!」 「友達とソフトウェアの会社を立ち上げたから、」 「え?…退魔関係じゃなくてですか?」 「あー、そうそう。魔を払う系アプリの制作なんかをね。株式会社 陰陽師」 「かっ…こいい!!」 「母さん、十碧に適当な事吹き込まないで」 「陽には聞いてたけど、本当に純粋なのね。かわいい」 憧れの眼差しでお父さんを見つめてた俺は、あきくんとお母さんが何か小声でやり取りしてるなぁくらいにしか感じてなくて、その内容は全然耳に入っていなかった。

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