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第76話

そして、まだ学生だからと待たせて、お母さんが大学卒業後、お父さんの会社が軌道に乗った頃、2人は結婚。 「「強かだ…」」 ってハモった美形兄弟に、お母さんは楽しそうにカラカラ笑った。 てかお父さん!恋する女性と結婚する為に学生の身で会社立ち上げちゃうとか、すんごい情熱的だな! うん、感動した! 「尊敬します!」 身を乗り出してお父さんに握手を求めると、またあきくんによって膝の上に引き戻された。 自分のお父さんまで嫉妬対象みたいだ。 ヤキモチ焼きだなぁ。ふふ~っ。 悪い気全然しないなぁ。 「で、十碧ちゃん」 「はい」 ところで、さっきからお母さんからの呼び方がちゃん付けで固まっちゃってるんだけど…。今のうちに「“ちゃん”はどうだろう」って言っといた方がいいのかな? 別に嫌じゃないから良いんだけど、今はいいけど三十過ぎてもそれだとちょっとイタイよなぁ。 「うちはそう言ったこともあって、受け入れ環境は整っている訳なんだけれど、……ぶっちゃけ、十碧ちゃんのお宅はどうなの?」 「えっ?うち、は……」 唐突に真剣な視線を向けられて、思わずひゅって息を呑んだ。 美人がそういう顔すると、迫力がド凄い。 「私が言うのもなんだけど、この子この見た目で得してるじゃない?物腰も柔らかいし、礼儀正しいし、素行もいい、進学先もしっかりしてるし、お母さん方にウケが良いとは思うのよね。女のお子さんに関しては、100%に近い割合で反対されない子だと思うのよ。でも、十碧ちゃんは男の子でしょう?  こんな事を訊いて辛くなっちゃったらごめんなさいね。十碧ちゃんの恋愛対象が男の子だってこと、ご両親はご存知なの?」 「あ……、えっ、と…」 お母さん、前半怒涛の勢いであきくんのこと褒めちぎってた気がする。 確かにぜんぶ、その通り、なんだけど。 「十碧、大丈夫。ゆっくりでいいから、考えて、話して」 耳元で柔らかな声がそう囁いて、 背中からやさしく抱き締められた。 実は、お母さんの勢いに面食らっちゃってただけなんだけど、やさしいやさしい俺の恋人は、俺が萎縮したんだと思ったみたいだ。 子供をあやすように とん…とん…と腕を撫で擦ってくれる。 その心地よさに思わず目を閉じて身を任せそうになって…… いや待て俺。って気付いた。 流石にこの甘やかしっぷりは…、あきくんの両親の前で、どうなんだ…? 「えと…、こんなにくっついちゃっていいんですか…?」 振り返ると、にっこり微笑まれた。 「だって、さっき告白の答え貰って今日やっと恋人同士になったばかりなんだから、今は一ミリだって離れたくないでしょう?」 な、なるほど… 情熱的なお父さんの息子さんはやっぱり情熱的なんですね。 「帰って来ないって言ってた人たちがここに居ることの方がおかしいんだから、僕たちは気にしなくていいんだよ」 「まあ!そんな意地悪なこと言って。まったく玲ってば、一体誰に似たんだか」 「母さんかな?」 「千芙由さんかな」 「陽!那弦まで!」 「あ…はは……」 俺も、そこんトコばっかりは、お父さんじゃなくてお母さんだと思います……。

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