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第77話

「冗談はさておき、」と顔から笑いを引っ込めると、お母さんは改めて真面目な顔で俺に向き合った。 「十碧ちゃんには、誰か相談できる人はいたの?」 「え…?」 「誰にも言えずに一人で抱え込んで、一人苦しい思いをしてこなかった?」 「あ……」 真っ直ぐに見つめてくる瞳に浮かぶのは、憂心の色。 俺の過去を探るんじゃなしに、ただただ心配してくれてる、優しい光。 「はい」 だから俺はにっこり笑って頷いた。 「いとこのお姉ちゃんが理解…って言うか、寧ろ男同士の恋愛話が好きな人で、」 「まあ」 驚いた様子のその表情は、だけど優しく微笑んでいて。 「なんとなく、そうなんじゃないかな…って自分で思い始めた頃、話 聞いてもらって、十碧はそれで良いんだ、って言ってくれたから。  だから俺、変にひねくれずに、ここまで素直なイイコに育ちました」 おかしな空気にならないように、冗談めかして笑ってみせる。 「それは!そのお姉さんに何かお礼の品を…」 なんか言ってるあきくんは、冗談じゃなくて本気みたい。 そんなの、沙綾ちゃんの目の前でイチャラブするだけで“最強の恩返し”って言われると思うよ。 「親には言ってなかったんですけど、なんか…気付かれてたみたいで、家出る前、俺が嫁に行くかあきくんに婿に来てもらうかって話に…」 「十碧はどっちがいいの?」 「え?俺…は、嫁…かなあ? でも、それだと父さんが泣いちゃうかも…」 「じゃあ僕が婿入りするよ」 「えっ、いやっ!まだ早いよ!?」 「…そうか。よかった……」 ポツリと呟いたお母さんは、フッと息と笑みを漏らして前髪を掻きあげた。 ふわっ…、なんつー男前…。 これが、女子校生をキャーキャー言わせてた王子様の片鱗か…! 「ほら、うちはこんなで皆マイペースだし、私も陽もバイだし、玲…はどうなの?」 ん?………へっ!? 「僕は知らない。初恋は十碧だし、これからも十碧だけだから」 お母さんにそう答えて、俺に向けては甘くトロリと微笑むあきくん。 俺もあきくんが最後の人ですっ!! って、叫んで抱きつきたいのはやまやまなんだけど、 ……いやいや、まてまて、 え……? 「陽成さん、どっちもいけるの…?」 「ん?…ああ、うん。でも、タイプは色気半端無い美人だから、十碧君は安心していいよ」 「や、そんな心配してないし!」 こちらこそお断りです! 兄弟どっちとも付き合うとか、無いわ~~。 色気が無いのも全然気にしてないしね。 これからあきくんに たっくさん色気引き出してもらうんだもん。 つまり、俺の色気はあきくん次第。あきくんの為にだけ醸し出されるものなのです。 「ま、俺の場合、母さんと違ってどっちもいけるけど割合的に同性の方が好きってのでもないからさ。男を好きになっちゃったら自分でシャットダウンするんだよ。  それで諦めつくなら俺の気持ちもそれ迄ってこと。それ迄ぐらいの想いで、相手振り回しちゃダメだろ。男相手じゃ下手したら新しい道拓かせちゃうからね。別れてそこ迄、って無責任だろう?」 「っ、………」

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