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第78話
………そうだ。そうだよな。
俺、無責任だった。
陽成さんの言葉で、不意に思い知らされた。
両想いだって浮かれてる裏で、悩んでる男が居ることに、蓋をして、見ないようにして……
確かに先にヒドイことされたのは俺だけど、
俺だけがスッキリ別れた顔で、アイツの言葉を最後まで聞くこともせずにぶった切って、終わらせることもさせてあげないで………
ああ…、そうだな。
俺は、無責任だった。
元々男が好きだったわけじゃない。
今だって、女だけが好きな男に、
確かに告白してきたのはあっちからだけど、そんな女好きな男に纏わりついて、くっついて。
あきくんにするみたいに全身で甘えて好き好きって伝えてたわけじゃないけど、
安心した顔して寄り掛かって、目が合えば微笑って、ヒドイことされてもすぐに許して、俺の方が年下だから偉そうにされても当たり前に受け入れて、けど俺だって男だから、甘えるだけじゃなくて甘えさせてもあげて。
それで上手いコトいってたのが、俺たちだった。
ナイショの恋でも、偉そうなオレサマ男でも、良かったんだ。
鞍馬の浮気癖──それさえ無ければ今だって、一緒に居たかもしれないんだ。
「……十碧? 大丈夫?」
唐突に黙り込んだ俺の顔をあきくんの心配そうな瞳が覗き込む。
「……うん。大丈夫」
「……本当に?」
その優しい瞳に不安の色が映りこんで。
ああ…、本当は、この人にこんな顔をさせちゃいけないのに……
「……うんとね、あきくん」
「……うん」
「俺、今日は帰ります。家族水入らずでお楽しみ下さい」
「っ、……帰っちゃうの?」
「うん。用事できた」
「十碧は…違うよ。誰かが悪いって言うなら僕が…」
「あきくんは悪くないよ。俺の問題。それにさ、あきくんと俺だけじゃなくて……いっしょに卒業させてあげなきゃダメかなって。アイツも」
恐らく俺の行動の理由に気付いてるあきくんに、誤魔化しなんて不誠実なことはできない。
それに、正直に話した方が、きっと安心できるだろ?
「だったら、十碧」
あきくんの膝の上、壊れ物でも扱うように、そっと柔らかく包み込まれた。
俺、弱くないから大丈夫だって言ってるのに。
もっと力いっぱい抱き締めてくれればいいのに。
「荷物そのままでいいから、用が終わったら戻ってきて」
「!……ふっ、うん」
「……なんで笑うの」
「いや、だって、……ふはっ」
「十碧…」
だって、あきくんに好きだよって告白してんのに、俺。
なんで舌の根も乾かぬうちに、元カレとの間で揺れてます、なんてことになっちゃってるって思われてんだよ。
俺のこと、どんだけ好きなの?で済ませるけどさ。俺 素直な良い子だから。
けどあきくん?その杞憂、実の所俺に対してめっっちゃ失礼な心配だからな。
「はいはい、大丈夫。じゃあそう遅くならないうちに戻ってくるよ」
ぎゅって正面から抱き着いて、背中をポンポン。
七瀬家三名様の視線がちょっと…生温かくて気不味いけど……
てか、俺の事情、七瀬家の皆様にまるっと知られてちゃってんの?
…まあ、あきくん→平茅先輩→陽成さん→ご両親、って感じの情報の流れがあったんだろうってのは分かったけど。
筒抜け、ちょっと恥ずかしい……
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