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第79話
すみませんがまた戻ってきます、と断って七瀬家を出た。駅まで送るって言うあきくんを玄関に留めて。
荷物は財布とスマホとPASM○だけ。
あ。髪に挿してた花は、あきくんの手によって取り払われました。
「僕へのプレゼントなんだから、他の男に見せる必要ないよね」って、独占欲丸出しの言葉を掛けられながら。
花付いてんのつい忘れちゃってただけで、別に皆に見せて回りたかった訳じゃないんだけどな。
更に、「可愛い十碧は僕だけの前でね」からのデコチューにはドッキュンした!
この人 家族の前で恥ずかしくないのかな!? って、そんな意味でもドッキンした。
駅に向かいながら鞍馬に電話した。
文字じゃなくて、声で伝えるのがいいと思ったから。
鞍馬は俺からの電話にちょっと驚いてたけど、会って話がしたいって言ったら躊躇わずにすぐに行くって答えてくれた。
電車を降りて、待ち合わせ場所へ向かう。
駅から徒歩15分の、俺たちが通ってた中学校近くの公園。
敷地内の半分がちっちゃい子向けの遊具に砂場、もう半分が広場みたいになってて、真ん中に大きな桜の木が一本。
一瞬で見渡せる小さな公園だけど地域住人には過ごしやすい場所で、午前中はちっちゃい子とそのお母さん達、この時間は低学年の小学生たちで溢れてる。
子供たちの蹴ったボールを避けながら、桜の木の下へ向かった。
「お待たせ」
木を囲う様に丸く作られたベンチに座った 可愛らしい公園と不釣り合いな男が、顔を上げるなり舌打ちをする。
「おっせーよ。そっちから呼び出しといて」
「なに?もう不機嫌なの?」
「テメェのが家近ぇだろーが。待たすんじゃねぇ」
「んん~。でも俺、今日はうちからじゃなくて あきくん家から来たからさ」
「あ゙?」
凄むな凄むな。小学生がビビってるから。
「卒業式だから、逢いに行ってたの。鞍馬だって2年生なんだから参列したんだろ?」
「………忘れてた」
「マジか!」
ホントに図太いな、この男!
だからそんな寝起きの顔して髪もちょっとハネらかして、出掛ける用意も中途半端で出てきました、みたいな格好してんのか。サンダル履きだし。
「まあそんな訳だからさ、鞍馬も卒業しよ。俺といっしょに、さ」
「あ?」
説明ぶっ飛ばして要点のみ伝えると、やっぱり意味がわかんなかったようで、鞍馬は不機嫌とは違う顔をして俺を仰ぎ見た。
「……つかお前、着拒やめたの?」
「ああ……うん、さっきね」
気まずくなって笑って誤魔化そうとすれば、苦虫を噛み潰したような顔を俺に向ける。
「悪かったってばぁ」
「……はぁ…」
なんだよー、その感じ悪い溜め息は!
「だって、鞍馬しつこいんだもん。別れたっつってんのに」
「テメェが一方的に言ってきただけだろーが。しかも恩着せがましく」
「恩着せがましくって…」
確かに、「別れてあげる」って言い方はしたかも知んないけどさ。
「でもさ、だから今、会ってんじゃん。俺に言いたいことあんだろ、鞍馬」
だから別れてからも電話してきてんだろ。
俺が着信拒否設定したのを知ってるのが証拠だ。
「聞いてやるから、言ってみ」
そうして話を促して、鞍馬の隣に腰を下ろす。
こういう風に話す時は、隣や斜め前に座った方が良いんだって、前になんかのテレビで言ってた。
対面に座ると敵対しちゃうから良くない…だっけかな?
確かに、真正面からじっと見つめられたら、言い出しづらい事がもっと言えなくなっちゃいそうだ。
少し前のめりに座ってた鞍馬は いつものように脚をガッと開いて体重を背に寄せると、
「年下のくせに生意気なんだよ」
ドスを効かせた声と視線で周りの小学生を追っ払って。
やっぱり不機嫌そうに小さく舌打ちをした。
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