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第1話
2月某日。
冬真っ盛り。雪ぼこり舞う白い世界の中、冷たいベンチに腰掛け白い息を吐く。
春になれば賑わう校舎脇の芝の庭は、今は足を踏み入れる者も少なく。
木々に茂る緑の葉も枯れ果て、ただ鋭利な枝が黒く影を落とすだけ。
凍えそうな体を抱き締めることもせず景色を眺めることもせずに ただこの場に留まる俺の姿は、人が見ればさぞ滑稽なことだろう。
だけど少しだけ、もう少しだけ、煮え立つ頭を冷ましたくて……
どんよりと曇った暗い空を仰ぐように、ベンチに背をもたれさせ、目を閉じた。
どれくらいそうしていただろう。
瞼にふわりと影が下りた。
「生きてる?」
声音は優しいけれど物騒なその物言いに重たい瞼を上げ身を起こすと、黒いウールのコートが見えた。
頭をわしゃわしゃとかき混ぜられて、どうして撫でられてるんだろうと不思議に思えば、
「雪だらけ。ここも」
次は黒い手袋を纏った手で肩の雪を払ってくれた。
その時になって漸く、相手の顔が見える。
美形だな──と思った。キラキラしてて、甘いマスクはまるでアイドルみたいに綺麗だ。
二重の優しげな目に、スーッと通った鼻筋、白い歯を僅かに見せる笑い方は爽やかで嫌味が無い。
少しだけ色を弄った 襟足が肩に付く長さの髪は、色白の肌に良く似合っていた。
声でそうと気付いていたけれど、知り合いじゃない。
大人っぽく見えるから、きっと年上。2年生か3年生だろう。
「平気?」と覗き込まれて、近すぎる顔の距離に、あぁ…睫毛長いんだな……、なんてボーっと考えた。
「風邪ひくよ。校舎に戻ろう?」
「かぜ……」
「失礼」
こつん、とおでこに小さな衝撃。
「熱は出てないね。けど、凄く冷えてる」
「…ああ、外、寒いですもんね」
「そんな他人事みたいに」
ほら、これでも巻いておきなさい、と少し怒った口調で言うや否や、ブルーグレーチェックのマフラーで首から口元からぐるぐる巻きにされた。
「あ……ぇと…、ご親切にありがとうございます…」
「で」
「?……で?」
「取り敢えず、校舎入ろうか」
「え…、あっ、えっ?」
有無も言わさぬ勢いで腕を引き、立ち上がらせられた。
寒さで固まってた足に力が入らず、ぐらりと体のバランスが崩れる。
「おっ、と。危なかった」
細いとは言われるけれど、高1男子 標準身長の男の俺をスムーズに抱き留めるとか…。
優しく安心させるように微笑みかけるとか。
細身に見えるのに支えてくれた胸や腕は意外やガッシリしてるとか。
この人、王子様なんだな、きっと。
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