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第2話
人気のない教室に、明かりが灯る。
室内にはヒンヤリとした空気が漂っている。
ここは3年の教室だ。
外気とそう変わらない室温に、そう言えば3年はもう自由登校だったか…と思い出した。
今日、少なくともここ1~2時間、この教室は使われていなかったんだろう。
そこへ当たり前のように足を踏み入れると言うことは、この人は三年生の先輩だってことか。
壁にあるパネルでエアコンの電源を入れると、先輩は俺の手を引き教室のうしろ側へと誘 う。
エアコンの噴き出し口からぶわっと、温かい風が湿った髪を揺らした。
「指先、凍えてない?」
「え…?」
「ブレザー脱げる?濡れたまま着てると風邪ひくから」
「あ、……はい…」
凍えてなんていない…つもりだったんだけど……
指が悴 んでて上手くボタンが外せない。
もたついていると、代わりに先輩がボタンを外してブレザーを脱がしてくれた。
自分も着ていたコートを脱いで。
「あったまるまで羽織っておいで」
肩からふわりと被せられる。
「……あったかい…」
コートに残る体温と香りに、思わず溜め息が零れた。
と同時に、体がガクガクと震えだす。
どうやら俺は、寒さに凍えていたらしい。
他人事のように思えたのはここまでで。心が現 に戻った途端、脚の力が抜けていく。
「寒いです~~っ」
震える声でそう訴えると、ぐらついた体を支え椅子に座らせてくれた優しい筈の先輩は、
「当たり前だよ、バカ」
軽い暴言を投げ付け、だけど手元は優しく。ハンカチで俺の頭を拭いてくれた。
「あんな所に座って なにしてたの?」
幾らか温まって体の震えが止まった頃、静かな声で先輩が訊いた。
「え…と…、頭を冷やしたくて?」
へへ、と笑ってみせるとまた怒った顔をされた。
美形の「めっ!」て顔は、ちょっと恐いけど綺麗で、いつまでも見てられるなぁ…なんて他人事に思う。
本気で怒ってるのかもしれないけど、怖くない。…って言ったらダメなのかもしれないけど。
でもそれだって、俺のことを心配して言ってくれてるんだって分かるから。
だってそうじゃなきゃ、膝の上に横向きに俺を抱え込んで、体温を分けてくれたりなんてしないと思うから。
こんな、人が見たら男同士で抱き合ってるみたいな格好でさ、普通に考えたら嫌じゃん、こんなことするの。
相手が可愛い女の子なら兎も角。
だから俺はドサクサに紛れて、温まるフリで 優しい先輩にしがみつく。
人のぬくもりが有り難い。しかもこんな美形相手だなんてね。
凍えているのは身体だけじゃない。
心も……だから。
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