3 / 120

第3話

「……また浮気された?」 「は!?……へ?」 労るような優しい声の辛辣な言葉に、随分と間抜けな声を返してしまったと思う。 「あ、その前に。僕は七瀬(ななせ)玲仁(あきひと)、3年です」 「は…ぁ…、七瀬先輩…」 「よろしくね」 「…よろしくお願いします」 「うん」 やっぱりこの人、3年生だったか。 ───じゃない!今はそれじゃないよ!! なんで知ってるの、浮気されたこと!? 俺っ、付き合ってるのも内緒にしてるのに!友達だって知らないのにっ!! 「あのっ、おれっ」 「あ、うん。知ってるよ」 だからなんで~~っ?! 「1年の鈴原(すずはら)十碧(とあ)くん」 「え……名前?」 「あれ? 鈴原君だよね?」 「あ、…はい。鈴原です…」 って、知ってるって名前のことかよ! 焦って損───いやいやいや、損じゃない!この人言ったし!“また浮気”って! あ、でも……… 「3年の先輩が、良く1年の俺なんかご存知でしたね」 部活も入ってないから年上とはほぼ接点のない俺。(約一名を除いては) 体育祭で目立つでもない、生徒会の役員でもない、ただの一生徒のフルネームをニ学年も上の先輩が知ってるなんて、ちょっと不思議だ。 そう思って訊ねれば、先輩は一瞬目を大きくして、それからプッて噴き出すと、「鈴原君は結構有名人だよ」と言った。 「有名人?…ってなんですか」 こんな一般人、有名になる意味が分からない。 「 入学式、3年は強制参加だけど2年は任意参加なんだ。にしては、上級生の数、多かったと思わない?」 「え、そうなんですか?」 あんまり覚えてないけど、先輩が言うならそうなんだろう。 「入学式はね、新入生の品評会なんだよ」 品評会…? 「うち、男子校だろう。女子が居ない。だから、可愛かったり綺麗だったりする子を、ね」 ね、って!その可愛かったり綺麗だったりする子をどうするつもりなんだよ!? 「で、鈴原君は一番株だったんだけど…」 「はい?!」 「2年の笹谷がね、自分のものだから手を出すな、って」 「はあっ?!」 自分で秘密にしろって言ったくせに!? 何勝手にぶっちゃけてやがる!鞍馬のヤロ~~~っ!!! 「そんな訳で、鈴原君は有名人なんだよ」 クソッ、全部アイツの所為じゃねーか! 鞍馬のヤツめーっ!!!! 「まあ彼が言わなかったところで、よく一緒に居る姿が目撃されてたり、2人の間の空気っていうか雰囲気がね」 「…そう…でしたか……」 アイツの所為だけじゃなかったとは……! 笹谷(ささたに)鞍馬(くらま)は、俺の恋人だ。不本意なことに。 思いっきり浮気性の!サイテー男だ!!

ともだちにシェアしよう!