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「緋色?どうした?俺の席で。部活は?」
泣きそうな顔のまま緋色がこちらを見た。どうして…そんな顔…
胸が大きく鳴った…だめ…その感情を思い出してはいけない…
胸に手を当て息を詰める…ダメ…こんなの…
「萌葱はもう帰ったんじゃなかった?」
「忘れ物しちゃって…」
「そっか…。俺も一緒に帰ろうかな…最近萌葱と過ごせてないし」
「家に帰れば会えるじゃん。朝も一緒に登校してるし」
「萌葱は…俺がいなくても平気なの?」
「もう俺たち子供じゃないんだし…」
「そっか…」
「緋色?何でそんなに苦しいの?」
緋色が苦しいと俺も苦しい…双子だからなのか感情はそのまま流れてくるのだ。
緋色とは生まれた頃からずっと一緒。
緋色は小さい頃は人見知りが激しくてよく俺の後ろに隠れていた。
そんな姿を見ていた俺は俺が緋色を守らないとならないからと必死で強い兄を演じていた。
どこへ行くのも何をするのも一緒。好きなものも苦手なものもほとんど同じだった
そんな緋色と俺。
中学は部活が必須だったから部活に入ることになる。そこで初めて違う競技を選んだ。
そうなると遊ぶ友人も変わってくる。一緒に過ごす時間もそれまでより減り嬉しくもあり寂しくもあったけど俺の感情の変化はそれだけじゃなかった。
他の男や女と楽しそうに話す緋色にイライラした…俺の緋色だったのに…俺がいないと何も出来なかったのに…なのにどうして…今は離れてるの?他のやつに笑顔を見せないでよ。俺のいないところで…
どろどろした感情が恋だと気づいたときにはもう遅かった…
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