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卒業後の進路は大学へは行かずそのままモデル業に専念すると決めていた。 大学へ行く道もギリギリまで担任に迫られたがそうなればあいつらと会う機会ができてしまうかもしれない もう二度と関わりたくないからあいつらとは違う世界に早く行きたかった。 緋色の進路は進学。某有名大学に合格が決まってた。 だからそこに行くものだと疑いもしなかった。 なのに…卒業式が終わったその日緋色は旅立っていった… 「聞いてない…そんなの」 その日は俺は終わってすぐ仕事だったから知らされたのはもう日付も代わり旅立っていった後だった。 「え?緋色が萌葱には直接話すから黙っておいてって言われてたから…」 「聞いてない!!なんで?どこに?」 「…ギリシャ」 「ギリシャ?何で?何のため?」 「向こうの歴史に興味があるっていってたよ」 「え…」 「ずっと向こうに住みたかったんだって」 「は?」 「何も聞いてなかったの?」 「…聞いてないよ…何で…」 卒業したら家を出て二人で暮らそうって話したかった…行くはずだった大学は自宅から距離もある。俺も実家から通うより事務所の近くに行きたかったから丁度いいって…そう…思ってたのに… すぐに緋色に連絡するけれど勿論連絡はとれなくて… 「あなたのお掛けになった電話番号はお繋ぎできません…」 完全な着信拒否…メールもSNSも全て拒否されてしまった… 「どうして…」 そうして時だけが過ぎていった…もうやがて3年になる… 俺以外には連絡もあるようだが…俺には… こんなに好きなのに…もう…俺の元へは帰ってきてくれないの? 「緋色に今朝連絡したらねぇ。恋人がいてね。恋人も一緒に住んでるっぽい」 「は?」 どうして…俺を置いていくの?… その日から緋色のことを少しでも考えなくていいようにこれまで受けてこなかった仕事もするようになった。モデルだけじゃなく俳優業も歌手業も来るものは全て受けた。 忙しい方が考える暇がないからよかった。 気がつけばモデル業より俳優としての仕事も増えて多種多様な役柄を演じてきた。そうしていれば俺じゃない誰かになれるから… 俺は俺という本人を閉じ込めて作り物のモデル萌葱で生きることにした。 緋色を思い焦がれた自分は封印しようって… でも…結局は…思いを閉じ込めることは出来なくて未だに思い続けている 忘れることは早々に諦めて仕事に打ち込んだ。好きなままでもいいじゃないかと言い聞かせながら…

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