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第32話 Clover's March 『ユキシタの二人 -再生の季節-』 -10E-

……今年でロームを身請して五年目……。春になれば……"更生身請け"の期間が終わる。 「ウィノ様、"ユキノシタ"ですよ」 寝巻き姿でベッドから抜け出したロームが窓から見える岩下に広がっている緑を指して、ニコリと俺を見た。 「……そうか」 「後で、ハスティさんに教えてもらった"テンプラ"にしますか? パリパリして、美味しいそうですよ」 「テンプラ? そうだな、食べたいな」 「それじゃ、後でたくさん庭から摘んで作りますね!」 そしてロームは窓から俺の元に戻って来て、ベッドの布団を捲るとスルリと俺の隣りに身を横たえた。 ロームはたまにハスティの所に行き、料理を習ってくる。 これがなかなか美味く、褒めたら『母親の代わりに自分が料理をしていて、慣れているからではないか』、と言われた。 そのハスティは……見た事の無い不思議な料理を作る。 あの森に捨てられた事を考慮すると生まれはこの辺な筈だが、この辺りの料理から明らかに逸脱している。 この前は「"コメ"が欲しい……」とぼやいていたと聞く。"コメ"? 何だ、それは……。 まぁ、美味い以前に、ノークはハスティの弁当にメロメロだ。俺は美味い弁当が欲しい時は、ロームに頼む。 ロームの味も負けていない。俺の舌はロームにメロメロだ。……一番なんて、各自自由で良いだろう。 ノークがハスティにそうであるように、俺もロームにそうなのだ。……ふむ? 「俺、これからもずっとウィノ様と一緒に居ても良いんですよね?」 「……ローム、許可する……。更生期間終了後、完全に身請けすると申請してきた。問題無く受理される筈」 ―……これで何年経っても、俺達は一緒だ。そろそろ雪原を自由に歩くロームを、俺の元に呼ぼう……。 "ユキノシタ"……か。 雪の下で葉を広げ、静かに、ゆっくりゆっくり……深く深く……春を待つ。 何だか自分と重なる様だ。 …………ロームは今日、ユキノシタを見つけた。 そう思いながら、外気に触れた事で少し冷たくなったロームに自ら抱き付いて熱を移す。 じんわりと平均化されていく体温に、頬が緩む。 布団の中でロームに抱き付く。 そうだ……。ロームは、来たのだ。 俺は布団から這い出て、ロームを見ながら口を開いた。 「―……ローム、愛してる……。雪が解けて春なったら、結婚しよう」 俺の言葉にロームは真っ赤になって、色好い返事を何度も言いながら俺を温かい布団の中に引き戻して熱を分け合ったのは………… …………また、別な話。

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