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卒業式-0
響き渡る拍手を背中に受けながら、左の胸ポケットに赤い造花、右手に白い卒業証書を携えて、体育館から退場する。
そのまま渡り廊下を歩き、教室棟へ向かう。
前の女子は式典の最中から泣き出していたが、今もまだ肩を震わせていた。
仲の良いらしい女が、大丈夫?と泣き腫らした目をこすりながら訊ねている。
うっざ、自分に酔いすぎ、と心の中で毒づきながら俺は足を早めた。
どうせ一ヶ月もしたら、高校時代のことなんてすっかり忘れて大学生活楽しんでるくせに。
卒業式の余韻に浸っているやつらの横を足早にすり抜け、とっとと教室に戻ろうとする。
でも、次の瞬間、勝手に足が止まった。……不覚にも。
渡り廊下の真ん中で、取り巻き連中とスマホで自撮りをしている、バカっぽい男。
その背中に、視線が釘づけになる。……不覚にも。
ふわりと風が吹いて、中庭の大きな桜の木から、雨のように花びらが降ってきた。
バカ男の姿が、桜吹雪に包まれ、薄れていく。
俺は動けないまま、決してこちらを振り向かない背中を凝視する。
その背中がおもむろに動いて、笑みを浮かべた横顔が見えた。
その瞬間、泣きそうになってしまった。不覚にも。
いつもクラスの中心にいるあいつ。
いつもクラスの片隅にいる俺。
一生口きくことなんかないんだろうな、と思ってたのに。
――卒業式の今日、どうして俺は、あいつの背中をこんなふうに見つめてるんだろう。
遠かったはずの、遠い背中を見つめながら、もう一度、と心の中でつぶやく。
もう一度、――
もう二度と、――
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