1 / 16

卒業式-0

響き渡る拍手を背中に受けながら、左の胸ポケットに赤い造花、右手に白い卒業証書を携えて、体育館から退場する。 そのまま渡り廊下を歩き、教室棟へ向かう。 前の女子は式典の最中から泣き出していたが、今もまだ肩を震わせていた。 仲の良いらしい女が、大丈夫?と泣き腫らした目をこすりながら訊ねている。 うっざ、自分に酔いすぎ、と心の中で毒づきながら俺は足を早めた。 どうせ一ヶ月もしたら、高校時代のことなんてすっかり忘れて大学生活楽しんでるくせに。 卒業式の余韻に浸っているやつらの横を足早にすり抜け、とっとと教室に戻ろうとする。 でも、次の瞬間、勝手に足が止まった。……不覚にも。 渡り廊下の真ん中で、取り巻き連中とスマホで自撮りをしている、バカっぽい男。 その背中に、視線が釘づけになる。……不覚にも。 ふわりと風が吹いて、中庭の大きな桜の木から、雨のように花びらが降ってきた。 バカ男の姿が、桜吹雪に包まれ、薄れていく。 俺は動けないまま、決してこちらを振り向かない背中を凝視する。 その背中がおもむろに動いて、笑みを浮かべた横顔が見えた。 その瞬間、泣きそうになってしまった。不覚にも。 いつもクラスの中心にいるあいつ。 いつもクラスの片隅にいる俺。 一生口きくことなんかないんだろうな、と思ってたのに。 ――卒業式の今日、どうして俺は、あいつの背中をこんなふうに見つめてるんだろう。 遠かったはずの、遠い背中を見つめながら、もう一度、と心の中でつぶやく。 もう一度、―― もう二度と、――

ともだちにシェアしよう!