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一学期-1
◇
「昨日さー、ミカちゃんとリビングのソファーでエッチしてたら、いきなり母ちゃん帰ってきやがってさー」
朝の貴重な読書タイムを邪魔しやがる、教室中に響き渡るような大声と下品な単語。
「慌てて服着て離れた瞬間リビングのドア開いてさー、めっちゃ焦ったわ」
笑って話すような内容じゃないだろ。
「ギリセーフやん」
「まだ勃ってたけどな」
「ぎゃはは!悠人、アウトー!」
聞くに耐えない。
「いやいや、セーフセーフ!多分ばれてねーから」
「いやばれるだろ!」
「つーかリビングでやんなよ」
「いや、なんか気分変えたくてさ、けっこう燃えたぞ」
呆れるほど最低だな。
「変態かよ!」
「男はみんな変態だろ」
「お前みたいなヤリチンと一緒にすんな」
「きゃー、ひどーい」
両頬をおさえて肩をすくめるふざけた仕草をしているのは、同じクラスの芦澤悠人。
とはいえ、あいつと俺が会話することは一生ないだろう。
いつも大勢に囲まれて、クラスの中心で楽しそうに騒いでいる芦澤。
いつも独りで、教室の片隅でひっそりと過ごしている俺。
全くの正反対、磁石で言えばS極とN極、四角形で言えば対角上の存在。
高校三年で同じクラスになってたまたま人生の直線が交わったけど、卒業と同時に互いの線は離れて二度と交差することはない。
…と思っていたのに。
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