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一学期-2

◇ 「なあ、それ何読んでんの?」 その日もいつものごとく読書に没頭していた俺は、唐突に声をかけられ驚き、顔を上げて声の主を知ってさらに驚いた。S極からはるばる何の用だ。 「…それを知ってどうするんだよ」 俺は反射的に本を閉じて机の中にしまった。すると芦澤はにんまり笑い、 「なんで隠すんだよ。さてはエロい本だな?」 「はあ?お前と一緒にするなよ」 「失敬な」 「彼女との性生活を公衆の面前で吹聴するような最低な奴に払う敬意はない」 きっぱり答えると、芦澤は「違うよ」と首を振った。 「何が違うんだよ」 「ミカちゃんは彼女じゃない」 「…ますます最低だな」 芦澤はおかしそうに笑い声をあげた。 「知らなかったー、水原っておもしれーんだな」 「どこがだよ」 「てかエロい本じゃないなら教えてよ」 にかっという効果音でも付きそうな笑い方も、俺とは正反対。 「…別にいいけど、知ってどうすんだよ本当に」 言いながら手渡すと、芦澤は「俺も本好きなんだよ」と笑って受け取った。 「は?嘘だろ」 「嘘じゃねーよ!」 「読書を嗜む人種には見えない」 「ダメ、偏見」 というか何なんだ。初めて会話してるはずなのに、芦澤はまるで十年来の友達みたいな軽い乗りで話してくる。そしてそれにつられて俺まで初接触とは思えない口の利き方をしてしまっている。 完全に距離感がおかしい。コミュ障の俺としたことが。

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