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【番外編】甘い初恋、混ぜれば強し
時刻は午前3時――。
「諒陽 ! 諒陽! 大変っ、大変なんだよっ!!」
深い眠りの中に居た諒陽は同じベッドで眠って居たはずの真凰 の喚き声に氷を心臓にあてられたかのように驚き飛び起きた。
「なっ、なに?! どうした?!」
火事か?! はたまた強盗か?!
諒陽は目覚めて間もない頭のせいで、全く状況を飲みこめない。
真凰はひどく恐ろしい物でも見たかのように怯えた目をして諒陽を凝視していた。肩に添えられた冷たくなった恋人の手を握り諒陽はその目の奥を覗き込む。
「あ、あのね――」
ゴクリと息を呑み諒陽は真凰の言葉を待った。
「夢のね……」
「ん? 夢……?」と諒陽は嫌な予感を感じつつ首を傾げる。
「夢の中で諒陽が、メロンかと思うくらいのおっぱいのデカイお母さんくらいのオバさんとエッチしてたの! 俺がね! 俺よりもそんなオバさんが良いの?! って聞いたらね、オバさんでもなんでも胸は無いよりあった方が良いって! デカイにこしたことはないって〜〜っ、そんな事言うんだよ〜〜!!」
諒陽は余りのくだらなさに思わず失神しそうになりかける。
「……俺……は、そんなお前が勝手に見た夢のことで……こんな夜中に起こされたのか……? 今日まで残業続きでクタクタだった俺の! 安眠を! お前は!!」
諒陽は真凰が着ているパジャマの襟首を掴んで前後にガクガクと激しく振った。
「だって! オバさんだよ?!」と真凰は本気で泣きそうな顔をしている。
「殺すっ!!!!」
諒陽は真凰を仰向けに押し倒し上衣を捲り上げて細いウエストを両手の指を使ってくすぐる。臍にはわざと緩い息を吹きかける。
真凰は小さい子供がはしゃぐようにキャアキャアと笑い声を上げ足をバタつかせた。
「やっ、やめっ、ひゃっ、ははっ、くすぐったいっ……ひゃははっ」
過敏な薄い肌は簡単に諒陽の攻撃に屈する。涙を流して真凰は悲鳴をあげていた。
「二度とこんな真似しないって誓うか!」
「ひゃっ、ははっ、しっ、しない……もっ、やめてっ……」
「ごめんなさいは?!」
「ごっ、ごめんなさっ……ひゃっ、ごめっ……やっ、どこ触ってんの!」
お仕置きのはずが諒陽の長い手はいつの間にか真凰の乳首を弄り始めていた。くすぐるみたいに指の腹で掠める。敏感な場所はすぐにぷくりと膨らみ、濃いピンク色になっていた。
「くすぐった……いっ、やめてよっ」
もじもじと合わせて曲げた膝を揺らして真凰はいやらしい拷問に耐える。
ウエストのまわりをくすぐっていた両手はすでに目的を変えたらしく真凰のパジャマを首まで捲り上げて丸見えになった胸をひたすらに苛めている。
「そんなことしたらっ……だめっ、感じちゃうからぁっ」
諒陽の両腕を必死に掴みながら真凰は懇願する。
「真凰がいけないんだよ。俺に失礼なこと言うから」
「な、なに……?」
「俺が、大きい胸が好きだなんていつ言った?」
「それは、夢っ、夢の話なんだって……痛ぁっ」
ギュ、と固くなった真凰の胸の尖りを諒陽は強くつねる。
「俺が好きなのは……このいやらしい真凰の胸だけだよ。こうやってグリグリ苛めたらすぐに硬くなって赤くなって、すぐにここ……も、感じちゃうんだよね?」
「やっ……」
諒陽は片手で簡単に真凰のズボンを下着ごと下げる。
そこからはすでに半分起き上がった真凰の性器がピクピクと震えていた。諒陽が片手でそれを包み指でくぼんだ部分を軽く掴んで先端へ向かって撫でるように摘むとそこはあっという間に硬さを持ち、諒陽の指を透明の先走りが濡らした。
「諒陽のすけべっ」
「今更?」
諒陽は綺麗な形の唇を端だけあげていやらしい目で笑みを浮かべた。
「真凰だって、もう何にも知らない子供じゃないだろ? 俺なんかよりずっとすけべだもんね? こうやって後ろ弄ったらすぐに前も硬くして中でグリグリしたらイッちゃうんだもんね?」
「ひゃっ……」
諒陽は簡単に真凰の後ろ側に指を侵入させて、腹の内側に近い真凰が弱い場所を強めに責めた。
「だめっ……、あっ! それっダメっ……」
「それ? あ、ごめんね。一本じゃ足りなかったよね? 二本が良い?」
「ひあっ……」
中にいた長い指が二本に増えてバラバラに動く。真凰の弱い場所をなんども指先が掠めては奥を触れられ、真凰はだらしなく足を開いて中で指が動くたび小さく丸い尻を揺らした。
「やらしい、真凰のココ……。真っ赤になって、ひくついてる。真凰が出したやつで濡れてパクパクしてる」
諒陽のお仕置きはまだ続いていたのだ。
普段はそんなオヤジみたいな言葉責めなどされたこともないのに、今日の諒陽は別人のようにすっかりどこかのスケベオヤジと化していた。
ふっ、と濡れた場所に息を吹きかけられ真凰は腰をビクリと浮かす。
真凰は妙な意地を覚えたのか今度は自らが挑発してみせる。
「諒陽は……ココ……挿れたくない……の?」
諒陽は真凰の魂胆に気付いてはいるが、しばらく黙って眺めた。
「俺の中に諒陽の太いの挿れて……奥までいっぱい突いて……中で、全部出しちゃうの……俺のアソコ、諒陽の精液でグショグショにしちゃうの……したくないの……?」
どこかで見たようなその展開に諒陽は少し妙な興奮を覚えた。だが、嫉妬が含まれていたのも確かだ。
「ふーん。真凰の……どこって?」
わざと諒陽は冷たくはぐらかしてみせた。
真凰はその意地悪に乗ってやるようで自分の右手を伸ばしてひくつく場所に伸ばし、諒陽が見えるようにわざと開いてみせた。真凰の指先が諒陽の手の甲に触れている。
「……ココ……だよ?」
ペロリと出した赤い舌で濡れた唇を舐め、真凰は妖艶な瞳を揺らして諒陽を誘う。
スウェットパンツの下で苦しそうにしている諒陽の雄を真凰はゆっくりと引き摺りだす。
「諒陽の、すごい……熱い……」
ゆるゆると細い指先が蛇のように諒陽の太い塊を這うと、それはさらに硬さを増して先端からは先走りが伝う。
それだけで真凰は自分の後ろがジンジンと疼いて中に収まったままだった諒陽の指をきつく締め付けた。
真凰が顔を上げるとすぐ目の前に諒陽の顔があり、あっという間に深く口付けられ、熱い舌が真凰の舌を絡めとり先を吸われ真凰は湿った吐息を何度も漏らした。
腰を高く持ち上げられ、恥ずかしい場所が諒陽に全て暴かれ真凰はきゅっと爪先を丸めた。
粘膜に先端の熱が触れて腰が痺れる。このままされたらきっと持たないと思った真凰は「ゆっくりして」と諒陽に告げようと息を吸うが、声にする前にそれは真凰を深く貫いた。
「ひゃっ……あああっ……!」
達しそうになるのをどうにか耐えながら真凰は瞳に涙を溜めている。細い肩先が乱れた息と一緒に上下している。
ぴっちりと根元まで一気に穿たれ、真凰は痺れる腰をビクビクと痙攣させた。下腹部の圧迫感がいつもよりずっと強くて、包んでいる内側が勝手に激しく戦慄いた。諒陽は小さく呻き声を上げた。
「コラ……それ、禁止っつったろ?」
「だ、だって……勝手に動いちゃうんだってば……んっ……」
真凰がもう子供じゃないどころではないことくらい、諒陽は嫌という程理解している。
何人の男とそれこそどんなプレイを今までしているか――考えるだけでも嫉妬で発狂しそうになる。
真凰が自分の性器を触れられなくても最後まで達することが出来るのも、後ろだけで何度でも気持ちよくなれるのも、全部その男たちとの経験があるからだ。
大好きな真凰の身体なのに、たまに無性に切り刻みたくなるほど腹が立つ時がある――。
初めてこの身体に触れたやつはどんな男だったのか――初めてこの中で射精した男は――初めて真凰が咥えた男は――
――くだらない。
いつまでも10代の思春期を患った子供みたいな嫉妬心が身体の中で暴れている。
「――俺を見てよっ諒陽!」
甘ったるい空気の中で突然真凰が叫んだ。
諒陽は一瞬、心臓が止まるかと思うほどその声に驚き、ゾクリと全身に鳥肌が立つ。
それほどにその声は大きな衝撃で諒陽の鼓膜を震わせ、余りにもそれは悲壮な声音だったのだ。
「……諒陽……」
さっきまで快楽に酔い痴れていたはずの真凰は今にも泣きそうなほど辛い表情をしていた。瞬きすればその大きな瞳からは涙がすぐにでも零れそうだ。
「真凰……。あ……ごめ、ごめん……」
諒陽は自らの瞳と手を動揺で震わせながら真凰を正面からしっかりと抱き留めた。
細い肩はひどく震えて、真凰が泣くのを必死に堪えていることがわかる。
「ごめん、真凰……ごめんな」
「……諒陽なら、いい……どんなに恥ずかしいことでも、痛いことでもなんでもしてあげる……平気……。だけど、ちゃんと俺を見てくれないのは嫌だよ……それだけは耐えられない……」
震える白い両腕が諒陽に回され強くしがみつく。
抱き留めた真凰の身体から悲しみが伝染してきて諒陽は唇を強く噛んだ。
「うん、ごめんな。真凰――俺はきっとお前が思うほど出来た男じゃないよ……。いや、そんなのとっくに知ってるよな……あんなに一緒にいたんだから……。俺は多分、あの頃と何も変わってないんだ……ずっと独占欲の強い、心の狭いガキのままなんだ……。ずっとお前のこと後悔してた分、昔以上に了見が狭い男なんだ」
「そんなのわかってる。今更何ゆってんの……」
ぐすぐすと鼻を啜りながら真凰は小さく呟く。
「うん。だよな、ごめん」
「……俺もね、思うよ? 何にも知らない綺麗な身体でいられたらどんなに幸せだったかなって……思ったよ……けどそれは自分のせいだから……自分が諒陽から逃げ出したせいだから……過去は変えらんない」
それは諒陽が真凰を傷付けた過去も同じことだと諒陽は自分があの時取った行動を思い出しながら悔いた――。
「だからね、俺は今の俺のまま、精一杯諒陽を愛することに決めたの。俺の全部で諒陽を守って、愛して行こうって決めたんだ。俺がもし弱ったりしたら諒陽は俺を助けてくれるでしょう?」
「うん、もちろんだよ」
「それってね、俺たちが大人だから出来ることだよ。子供に子供は救えない。だから諒陽、逢えなかった時間を埋めようと踠がかないで、そんな必要俺たちにはない。俺は逢えなかった分、これからずっと深く諒陽を愛すから――過去の自分を責めたり、悔やんだりしないで今からの俺を愛してよ」
揺れた瞳にはいつしか強い決意の火がつき、深い色をして諒陽を見据えた。
こんな真凰の一面を知る日が来るなんて、あの当時なら考えられなかっただろう。
空白の時間が真凰を強くして、同時に諒陽にだけ見せる弱さを素直に出せるようにした――。
もう二人がこれから進む未来は、互いに後悔することがないように――。
「――ねぇ、諒陽。明日は昼まで寝坊して良いからご飯は諒陽が作って?」
「いいけど……どうしたの?」
「俺ね、今から疲れ倒して泥のように寝る予定だから」
目尻を赤くした真凰は、色香の漂う含みのある笑みを浮かべて諒陽の首筋から胸を伝って徐々に下に指を這わせてゆく。
「交渉成立したところで、続きしよ?」と、肩を竦めてあざとく甘える真凰に口付け、諒陽は穏やかな笑顔を見せる。
「愛してるよ……、真凰――」
「えー? どれくらい?」
「お前な」
わざと揶揄ってはしゃぐ真凰を押し倒してもう一度口付ける。
少し冷めかけていた繋がった場所をまたゆっくりと熱が広がり出す。
真凰はうっとりと諒陽の頬を両手で包み、その瞳をまっすぐに見つめた。
愛しそうにこちらを見つめる真凰が自分にとってもより愛しい者に思えた。
それが高校生の頃よりもずっとずっと深い感情なのが今ならハッキリとわかる。
まるで真凰の言ったとおりに――。
「真凰。俺、絶対もうお前から離れないから。覚悟しろよ」
「じゃあ今日からスッポンって名前にする?」
「雷が鳴っても俺は離れないけどね」
「……諒陽っておじいさんみたいなことたまに言うよねー」
「お前、本当に覚えてろよ」
真凰はまたあの子供のようなはしゃいだ高い笑い声をあげる。繋がった場所からその震えが伝わって、妙な感覚に思わず諒陽はおかしな反応をしてしまう。
「ふふふ、諒陽変な顔」
「お前、俺をイケメンだって褒めてたんじゃないのかっ」
「えっ、イケメンだって自負してたの? キャー怖ーい、イケメンくん意識高ーい」
真凰はわざと棒読みセリフで揶揄ってみせる。
「お前にはムードってもんがないのか、本当に」
「俺にそんなものあると思ってたの? 諒陽といるだけでいつでも発情してるのに」
またあの厄介な手がするりと諒陽の胸を撫でる。
「あー! もう! 早く抱かせてください!!」
お辞儀付きで切願されて真凰は笑いながらようやく大人しくすることにした。
諒陽は、それらすべてが真凰の本当は照れ隠しだというのを知っている。知っていてわざと最後までノッてやるのだ。
経験値を上げて図太くなったと見せかけて、いつまでも真凰は初恋に、諒陽にだけには繊細なままなのだ――。
その証拠に細い身体を抱き締めれば真凰の心臓が早鐘を打つように乱れたリズムを刻んでいることが自分にも伝わる。口付ければその濡れた赤い唇が震えていることも全部――。
「初恋が苦いなんて誰が言ったんだろうな……」
諒陽は不意にポソリと呟いた。
「え? なあに?」
「ううん、真凰はこんなに甘いのになあって――」
諒陽は真凰の首筋に唇を寄せる。
「……諒陽、ムッツリオヤジみたい」
「――いや、同じ歳だからね? 俺たち」
今日だけで一体幾つの異名を恋人から授かったのかわからない――。
「おじいちゃんになっても一緒にいようね、諒陽」
指を絡めて手を握りお揃いのペアリングを真凰はうっとりと眺める。
諒陽が細い薬指に唇を寄せると、真凰はくすぐったそうに肩を竦ませた。
そして、幸せそうに微笑む真凰の弧を描く唇にゆっくりと口付けた――。
END
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