1 / 6
卒業式の後に告白ってなんか素敵やん?
体育館と教室棟を結ぶ廊下に桜が吹き込んできた。
俺、片桐 瞬 は、片手に卒業証書の筒を握りしめ、体育館裏に向かっていた。
今日は高校生最後の日!
クラスのアイドル、葵 ちゃんに告白する!!
そして、童貞を卒業してやるんだ!!
顔も性格もそんなに悪くないはずなのに、何故か彼女ができず、未だに童貞…。
それも、今日で終わりだ。
下駄箱に手紙も入れて、体育館裏に呼び出したし、準備万端だ。…おい、定番とか言うな。
約束は卒業式終わりの11時。
あと15分。
待ってなきゃな。
「瞬ちゃん」
渡り廊下の奥から俺を呼ぶ声。
卒業式だと言うのに、ボサボサの黒髪に、牛乳瓶の底みたいな黒縁眼鏡。着崩した俺とは違い、カッターシャツも一番上までボタンを止めて、ネクタイも上まであげている。ブレザーも全部ボタンを止めて、靴下は学校指定の白い靴下。
品行方正と言えば、品行方正。
悪く言えば、ダサい。
かっこいい奴がすれば、別にダサいなんて思わないけど、何でかこいつがするとダサい。
そして、このダサ男は俺の幼馴染みである、高橋冬馬 である。
「冬馬、お前こんな所で何してんの?」
「一緒に帰ろうと思って」
「は?昨日言ったじゃん。今日は大事な日だからって」
家が隣同士の俺たちはよくお互いの部屋に遊びに行く。
特に俺が冬馬の家に遊びに行く。
こいつの家は金持ちで、両親も外国で仕事しているから、実質独り暮らし。
よく新しいゲームを買っては遊ばせてもらっている。
服のセンスとかは悪いが、ゲームのセンスはいいと思う。何せ、ゲームの仕方は俺が教えたしな!
「新しいゲーム買ったけど。瞬ちゃんがやりたがってたRPG」
「え!?マジで!…ってだから、今日はダメだって!」
あっぶねー。流されるところだった…。
「……どうせ、またフラれるのに。どうして、そんなに女の子と付き合いたいの?」
「お前、何気に悪口言ったな…。んなもん、デートしたり、イチャイチャしたいからに決まってんだろ!?」
冬馬は興味なさそうに「ふぅーん」と言った。
お前が聞いたくせに、何で興味無さそうなんだよ!!
「……遠藤さんなら、体育館倉庫にいたよ」
遠藤さんとは、葵ちゃんの名字である。
「何でそんな所にいるんだ?」
「遠藤さん、バレー部だったから、何か思い入れでもあるんじゃない?」
なーるほどな。
他人に興味のない冬馬にしてはいい推理だな。
葵ちゃん、一生懸命部活してたし、高校最後の日にバレーボールにお別れを言いに行ったのかもしれないな。
「ありがとう!俺、体育館倉庫に行ってみる!!」
俺は来た道を引き返し、体育館に向かった。
俺は浮かれて気づいてなかった。
冬馬が、後ろで薄く笑っていたことを…。
ともだちにシェアしよう!