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高橋冬馬は悪魔である。
茶髪に着崩した制服。高い背丈。
きりっとした目がかっこよくて好き。
友達も多くて、いつも誰かと話してる。
俺と居ても、いつも誰かが傍にいる。
15年間、ずっと大好きなのに、振り向いてもらえない。
出会ったのは幼稚園の頃、女の子みたいな容姿だから、他の男の子によくからかわれてた。
そこを助けてくれたのは、幼馴染みの片桐瞬ちゃん。
喧嘩が強くて、ヒーローみたいだった瞬ちゃんに俺は一目で恋に落ちた。
そこからは小中高とずーっと一緒。
家も隣だったから、お互いの家によく遊びに行ってた。
瞬ちゃんはゲームが好きだったから、新しいゲームを買いまくって、瞬ちゃんと一緒にゲームした。
ゲームした時に「お前つまらない」って言われないように、いっぱいゲームをして強くなった。
格闘ゲームで3戦したら、瞬ちゃんのプライドを傷つけないように、3対2くらいで瞬ちゃんが勝つようにした。
サキュバスとして開花してからも、眼鏡をかけて、他の男や女を誘惑しないようにした。
容姿もダサくなるように心がけた。
もともと瞬ちゃん以外興味がなかったから、そこまで努力もしなかったけど。
小学生六年生の頃。
「俺、かなちゃんに告白するっ!」
と瞬ちゃんが言い出した。
女の子と付き合うと言うのだ。
そんなの、絶対に許さない。
瞬ちゃんの童貞は俺が絶対にもらうのだ。
瞬ちゃんは靴箱に手紙を入れて、告白すると言っていたため、次の日、瞬ちゃんが入れた手紙をこっそり抜き取り、処分した。
放課後、待っても現れないその子を瞬ちゃんはずっと待っていた。
俺もその姿をずっと陰から見ていた。
日が暮れてきて、俺は瞬ちゃんに帰ろうと促した。初めは渋っていた瞬ちゃんだが、大好きなお菓子やジュース、それからゲームの話をすると渋々俺の家に来てくれた。
そんな酸っぱい初恋のことを忘れて、瞬ちゃんは次から次へと可愛い女の子に惚れていった。
惚れては靴箱に手紙を入れて、告白する…というのが、瞬ちゃんの告白のパターンだった。
俺は毎回同じやり方で阻止するのだが、全く瞬ちゃんは気づかないし、懲りない。
ここまで読んでもらっている人は、瞬ちゃんがおバカさんなことにお気づきであろう。
そう、瞬ちゃんはおバカさんなのだ。
もう、いい加減俺のこと好きになればいいのに…。
高校に上がってからも、瞬ちゃんの惚れっぽさは治らなかった。
そして、高校二年の秋、恋の宿敵・遠藤 葵が出てきてのだ。
瞬ちゃんは学校の話をすると、「葵ちゃん」という単語を何度も繰り返す。「葵ちゃん」だけで会話してるんじゃないかってくらい。
でも、いつもと違ったのは、すぐに告白に移らなかったことだ。
それに遠藤 葵は、今までの瞬ちゃんのタイプとは違っていた。
瞬ちゃんが好きになるのはアイドルのように可愛い女の子なのだが、遠藤 葵は性格の良さが滲み出ているような女の子だった。
アイドルというより、清純派女優といったところだろうか。
そして、本当に性格が良かった。
困っている人がいたら、放っておけない。
グループで行う授業で一人になっている子がいたら、「私たちと一緒にしようよ」と声をかけてグループに入れてあげる。
性格のよさを鼻にかけないところも、クラスの男子女子ともに人気があった。
どんな人にも話すときに態度を変えなかった。
……ダサ男の俺にも声をかけてくれた。
「高橋くん、おはよう!今日雨降ってくるかもだって、折り畳み持ってきた?」
「…いつも持ってる」
瞬ちゃんが濡れないように常に持っている。
相合い傘が出来て、一石二鳥だし。
「そうなんだ!雨って急に降ってくることあるしね、私もいれとこーっと。じゃあ、また教室でね!」
そんな会話をした覚えがある。
それを見てた瞬ちゃんに後から詰め寄られたけど。
時が進み、卒業式が近づいてきた。
未だに瞬ちゃんは告白しなかった。
どうやら本気で遠藤 葵が好きらしい。
「俺、卒業式終わったら、告白する!」
「また手紙?」
「当たり前だろ!こういうのはメールより手紙の方が気持ち伝わるんだって!」
その前に抹消するけどね。
当日、遠藤 葵の下駄箱を開けて、瞬ちゃんが入れた手紙を取り出す。
「高橋くん?」
ドキっとして振り返ると、そこには遠藤 葵が立っていた。
「そこ、私の下駄箱…」
「ごめん、間違えた」
「……そっか」
絶対嘘だってバレてる。
もう逃げよう。
「俺、教室戻る」
「待って!」
遠藤 葵は俺を引き留めた。
問い詰められるかな…なんて、言い訳しよ。
「私…高橋くん、好きなの…!」
「え」
なんと、まぁ。
瞬ちゃん、手紙だしても気持ち伝わらなかったみたいだよ。
「何で、俺?ダサ男だって言われてるのに…」
遠藤 葵はふるふると首を横に振った。
「そんなことない!私、高橋くんの目を見てると、胸がぎゅってなって…目が離せなくなるの」
あー…この子、かなり感受性が強いらしい。
眼鏡をかけている限り、他人を魅了することはないが、稀に感受性が強い人間がいて、魅了してしまうことがある。
「ごめん。俺、15年間片思いしてる人がいるから無理」
俺はばっさり振った。
遠藤 葵は瞳が潤んだが、すぐにいつもよりぎこちないが笑顔を見せた。
「そっか…15年思ってる人がいるんじゃ、勝てないね」
俺は持っていた手紙を差し出す。
「その人がさ、遠藤さんに今日告白したいんだって」
遠藤 葵は手紙を受けとり、目を真ん丸にして、俺を見上げた。
「俺のこと、好きって思ってるんだったら、その人の事、振ってやってくれる?」
瞬ちゃんの好きな相手に笑顔でこんなこと言うなんて…
あぁ、俺はやっぱり悪魔だなって思った。
終
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