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エピローグ 始まりの朝

 そわそわと落ち着かない父に、落ち着いて下さいよと笑う母の笑顔もほんの少しぎこちないようで、微笑ましいような奇妙な心地にそっと苦笑を刻む。  もう一人、本来ならここにいるべきだった弟には、結局席を外してもらったままだ。弟が悪いわけでもない、誰が悪いわけでもないと分かっているからこそ後ろめたい。落ち着かないのは彼の到着が遅れているせい、と決めつけて深呼吸をする。  絶妙のタイミングでスマホが鳴って、彼からもうすぐ着くとメッセージが入った。 「もうすぐ着くって。近くまで迎えに行ってくるね」  無理にはしゃいだ声を繕って部屋を出ながら、彼の電話番号を呼び出して発信する。 「今から迎えにいくわね」 『ありがとう。……今駅に着いたところなんだ。ごめん、遅くなって』  普段使わない路線で乗り換えに手間取ったんだ、という申し訳なさそうな声に、大丈夫と笑い返す。 「すぐ行くから」  パタパタと走って靴に履き替えたら、何かを振り切るように扉を開けた。  ***** 「実は今日ね、姉ちゃんの結婚相手の人が家に来るんだって」 「ぇっ、そうなの!? じゃあ今日ってもしかして、帰んなきゃマズかったんじゃないの!?」  寝ぼけ眼を擦りながら呟いたセリフに、どうしよう、とオロオロした颯真がパンツ姿のままベッドを下りてタンスに走るのを、だいじょーぶ、とあくび混じりに止める。 「いない方がいいって姉ちゃんに言われた」 「……それ、大丈夫って言わない……」  情けない顔で振り向いた颯真がとぼとぼとベッドに戻ってきて、くしゃ、とオレの頭を撫でる。それに、大丈夫、ともう一度付け足して笑って見せた。 「……姉ちゃんとは、昨日話してきたから」 「ぇ? そうなの?」  いつのまに、と驚くのへ、ふふ、と笑って 「陽香ちゃんのお陰で、ちゃんと話せた」 「陽香の?」  キョトンとする颯真に頷いたら、だから大丈夫だよと笑う。 「陽香ちゃんにお礼言っといて。勿論、いつかまた会えたら、オレからも言うけど」 「…………会えるよ。これから先、いつでも。……それに陽香のやつ、司のことめっちゃ気に入ってたし。どうせまたイキナリ押し掛けてくるんじゃない」  投げやりに笑った颯真に、陽香ちゃんらしいね、と笑い返す。 「……それにさ。オレん家に先に挨拶に行くって手もあるから」 「はい?」 「司ん家からじゃなくて、まずはオレん家の反応見てみるって手もあるってこと」 「そうま……」 「大丈夫だよ。焦る必要も全然ない。……急がば回れって言うし、どうせこれから先ずっと一緒なんだし。……ゆっくりでいいよ。ゆっくり分かってもらえばいい」  ゆったりと笑った颯真が、わざと音を立てて額に唇を落としてくれた。 「二人一緒なんだから、いつか絶対上手くいくよ」

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