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第16話
ちゃぷんっと言う湯の音に、ゆらゆら揺らめく自分の身体を想像し、不思議な感覚に意識を浮上させた。
いつもよりも幾分か圧迫感を覚える風呂に揺蕩っている。
腫れ上がった右足首の痛みと、喉の痛み。それに身体の中央がやけにジンジンとしている。
「あ、起きた?」
圧迫感の原因が、哉太の背後で声をあげる。広くも狭くもない浴槽に、育ち盛りの男子高校生2人、1人が1人を後ろから抱きしめる格好で浸かっていた。脇に差し込まれていた千尋の腕が水音をたてて哉太の胸の突起を弄ぶ。そこでようやく哉太は自分の置かれた状況に気づいた。
「んッ……お前、何やってんだよ」
「カナの身体を洗ってる」
「ふざけんな。そこ、いらない」
重い身体を捩り千尋の手を振り払うと、今度は首筋に顔を埋められる。ボソッと小さな声でごめんと謝られると、それ以上、突き放す気にはならなかった。
千尋に背をあずけながら、無言で湯船に浸かる。紫に色づいた湯の色のその先、自分の右足を目に映しながら、テーピングは外したんだなと気づいた。
「その脚、病院行かなくていいの」
「明後日まで腫れがひかなかったら行く」
「バスケ出来そう?」
「無理。脚も腰も、尻も痛いから、明日はサボる」
全部お前のせいだ、そう言おうと振り向くと、唇を重ねられる。先ほどまでの情事を思い出させるようなソレに顔が熱くなった。
「カナ、俺のこと嫌いになった?」
ぎゅっと抱きしめられ、いつもの千尋とは少し違う、切なげな声音で問われる。その言葉の裏側に隠れた千尋の弱さに気づき、哉太はきゅっと唇を噛み締めた。
幼い頃から、兄弟でもないのに二人で過ごすことが多かった。仕事人間といえばまだ聞こえは良いのかもしれないが、少なくとも哉太の両親は哉太に興味がないように思えた。今となれば興味を持たれないことが楽に思えるが、幼い頃は親に構って貰えないのは、自分のせいではないのかと責めたこともあった。
そういう時、いつも隣には千尋がいた。ムカつく時もあるし、縋りたくなる時もあるけれど、これからの人生の節目、分かれ道には近くにいて欲しかった。千尋と同じように、千尋には普通の幸せを掴んで欲しいと願うけれども。
無言でぼんやりとしていると、不安になったのか、千尋が哉太の名前を呼ぶ。
口角をわずかにあげて、千尋に向き合う。
「小春ちゃんとのことで心がざわついて、バスケができなくなるくらいには、千尋が好きだよ」
「それって……」
「キスしたいとか、セックスしたいとか、ソウイウ好きかどうかはわかんねーけどな」
そもそも初恋もまだだし、と笑う。
千尋はそれでもいいよと笑った。
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