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第15話

返事も待たず、哉太の部屋のベッドの上に降ろされ、その上からしなやかな体躯の千尋がのしかかる。ジリジリと迫る千尋を避け後ろへ下がれば、背もたれに突き当たり、逃げ場を失った。 「なんで逃げるの」 「……いや、なんとなく」 「気持ちいいことしたくない?嫌なこと、上書きしてあげる」 意思の強い瞳で見つめられ、恥ずかしさで視線を逸らすと、慣れた手つきで上を向かされる。 冷たい指先に、震えた様子の小春を思い出した。 「千尋さ、俺なんかより小春ちゃんをもっと大事にしろよ。さっき、震えてた。可愛いし、性格も悪くないし、胸もデカいし、最高じゃん」 「カナ、小春みたいなのが好みだっけ」 「小春ちゃんのこと好きなのはお前だろ」 「好きじゃない。俺が好きなのは小春じゃない」 じゃあ誰だよという言葉は、千尋の唇に吸い込まれた。後頭部を壁に押し付けられ、逃げ場のないキスが繰り返される。両頬を千尋の手のひらで押さえられ、首を振ることすらかなわず、されるがまま千尋の舌を受け入れた。 舌先がねっとりと絡みつき、呼応することを強制される。手持ち無沙汰な両手を千尋の胸に添えると、千尋の熱が指先に伝わった。 うっすらと瞳を開け、千尋の様子をうかがうと、微かに視線が絡まった。目尻が優しく細まり、唾液をひきながら唇が離れていく。 「俺の好きな奴、わかった?」 「は?」 「まだわかんないならもう一回する」 唇が重なった途端に舌を入れられ、蹂躙される。丁寧に口腔を愛撫され、身体の力は抜けていくのに、哉太の一部分だけが力を蓄えていく。 「カナ、気持ちいい?」 滾る中心を握り込まれ、こくこくと頷く。 「一回出しとく?さっきも言ったけど、今日は長くなるし」 「何するつもりだよ」 「俺の好きな奴を教え込むつもり」 「小春ちゃんだろ、嘘つくな」 与えられる快楽に流されそうになりながらも、理性だけは手放さないように千尋を睨みつける。 「なんでそんなことで嘘つかないといけないんだよ。……じゃあ、なんでカナは小春だって思うの」 ゆるゆると根元だけは刺激しながら、千尋が問う。 「最近、よく一緒にいるし……ッ、仲良いじゃん」 「腰揺れてきた。気持ちいい?」 「んッ……」 「声出た、可愛い。で、カナは俺が小春と一緒にいるから、俺が小春のこと好きだと思ったの?」 「違うのかよ」 「小春と別れてからさ、色々あってアイツ攻撃対象になっちゃったからさ、牽制の意味も込めて一緒にいただけ」 攻撃対象とか、牽制とか、何を言っているのかと思ったが、雄大が言っていた「千尋がオンナ断ちしている」という話を思い出し、ようやく合点が行く。 「俺が誰とも付き合わなくなったのは小春のせいだって言ってさ。オンナって怖いね。でもカナが嫌なら、小春と一緒にいるのもうやめる」 「なんで……」 「別にサッカー部の奴らに押し付ければいいだけの話だし。もともと別れてたし」 「小春ちゃん、好きなんだろ。だからそんなに大事にしてんだろ」 「カナの方が一緒にいるし、カナの方が大事にしてる。カナの方が仲良いよ」 「だけど」 「小春とはキスしない」 そう言って、当てつけのように唇が重なる。 「小春とはこんなこともしない」 優しく扱かれていた屹立をぎゅっと握り込まれる。 「セックスもしない」 「ああッ……!」 哉太の秘められた蕾に、千尋の指先が触れ無遠慮に入り込む。急に与えられた異物感に抑えていた声と恐怖が解放される。今までの情事とは違う行為に身体が微かに震えた。 「やっぱりキツいね。カナもう少し力抜ける?」 「無理ッ!……お前が抜けッ……」 「カナお願い、力抜いて。ゆっくりでいいから」 「無理、無理、ムリ!」 ジタバタと千尋の指から逃れるように身体を捻る。生理的に滲む涙を千尋の舌が掬い取ると、そのまま深く口づけされた。 驚きと異物感に萎えた屹立の先端をグチュグチュと刺激され、抽送される指先に快楽の灯火が点けられる。 「カナ。もう一本指増やしていい?」 「や……なんで、千尋……」 「好きだからだよ。カナが好き。カナが一番好き。だから、キスもするし、気持ちよくさせてあげるし、セックスもしたい」 「え……どういう……」 「鈍いよね。ずっとそう言ってるじゃん。中学三年のあの時から。一番好きじゃないとキスしないって」 「言ってるけど……お前、彼女作るし、いつもいつも俺にばっか好きって言わせて、キ、キスだっていっつも俺からさせてたじゃん」 「……言い訳っぽいけど、カナが好きだからだよ。カナが好きだから、普通に、幸せになって欲しかった」 普通って何、そう問うと、普通は普通だよと千尋が笑う。 「バスケやって、受験勉強して。もしかしたらそこには可愛い彼女がいたりしてさ。大学行って、就職して、結婚して、子ども産まれて……俺は近くにいて、相変わらずカナのこと好きでいると思うけど、たぶん隣にはいない。そんなカナの、普通の幸せを願ってた。カナが口には出さないけど、家族と一緒に住めなくて寂しい思いしてるの知ってるからさ。俺だと、家族作ってあげられないし」 「そんなの……」 「カナから離れようと思って彼女作って、でもカナが好きでちょっかいかけて。いつカナが俺のこと好きじゃなくなるのか、いつカナが俺以外を好きになるのか。怖くて、いつも確かめてた」 「じゃあ、なんでこんなことすンだよ。……俺のこと嫌いになった?」 蠢く指に心と身体が引き裂かれる。 少しでも声を上げないように両手で口元を抑えると、さらに質量が増えた。 「勝手に勘違いして、他の男のモノ咥えて来るんだもん。危なっかしくて見てられない。他のオンナのものになるなら許せるけど、いや、本当は許せないけど、他のオトコのものになるのだけは許せない」 動く指先に吐息が荒くなる。 「指、二本入ったよ。前もダラダラよだれ出してる。気持ちいい?」 二本の指が今まで暴かれたことのない箇所を蠢く。痛みや苦しさがあるはずなのに、湧き上がる官能に抗うことができない。 「もう一本いけるかな。入れてもいい?」 「……やだって言っても、いれるんだろ」 「もちろん」 急に増えた質量に、生理的な涙が滲む。 哉太の最奥がグリグリと刺激されれば、意識とは違う無意識の部分で先端から透明な液体がじわじわと滲み出る。 たった数分の時間がとてつもなく長く感じ、自分で自分を抱きしめるしか意識を保つ方法がない。 「カナ、平気?まだいける?」 「無理ッ、抜け!!」 「やだ。ほんとはさ、俺のカナの口に突っ込みたいくらいなんだけど、我慢してるんだからさ。こっちは我慢して」 理不尽な要求に、唇をキツく噛み締めた。 頭の中を先ほどの千尋の言葉が駆け巡る。矛盾だらけの告白に採点してやりたいところだったが、体内を浸食していた指が嫌らしい音を立てて出て行く。急な喪失感に乱れた息を整えながら視線を千尋に向けると、そこには硬く反りたった欲望が露わになっていた。 背をベッドに押し付けられ、太ももの裏側に手がかかる。優しく、それでいて乱暴に力を込められて脚を大きく開かされると、浮き上がった臀部に千尋が割り入る。 ぬるぬるとした怒張が、先ほどまで陵辱された蕾にあてがわれ、思わず情けない声が上がった。 「千尋……お前、何するつもり……」 「何って、セックス。……カナ、もしかして男同士のやり方知らない?男同士でする時は、ココ使うんだよ」 「は?聞いてない」 「知ってるかと思って。ゆっくり入れるのと、一気に入れるのどっちがいい?」 「どっちも嫌だ。ってか、そんなの入んねーよ」 「じゃあ、入るかどうか試してみよ。ね」 嫌だという言葉は、ゆっくりと体内に侵入した千尋自身に驚き、飲み込まれた。一進一退の抽送を繰り返し、徐々に入り込む。 異物感が気持ち悪い。体内をぐちゅぐちゅかき回される感覚に必死になって歯をくいしばる。無理だ、出来ない、やめてほしい。発したい言葉はたくさんあるのに、その一つでも声に出してしまえば、硬直した身体が弛緩しなし崩し的に侵入されてしまう気がして、耐えることしか出来ない。 「カナ、半分入った。さっきみたいにもう少し力抜ける?」 口元を押さえたまま、ふるふると首を横に振る。 「なんかレイプしてる気分……」 「気分じゃなくて、してるッ……あ…ッ!あぁぁ!!」 「あ、ごめん。全部入っちゃった」 声を発したと同時、微かに力の抜けた後孔に重い楔が打ち付けられ、肌と肌とがぶつかり合う。 密着する温もりに、涙を浮かべながら睨み付けると、千尋は困ったように笑い今まで身にまとっていたパーカーを脱ぎ捨てた。 薄っすらと蒸気した肌が、やけに雄の色香を強調させる。濡れた瞳で見つめられ、ドクンっと心臓が大きく揺れた。なんだこれ。こんな鼓動聞いたことない。 「カナの中、全部入ったね」 ぎゅっと抱きしめられ、わざとらしく千尋の両の突起が哉太のそれと擦れあう。優しい刺激がくすぐったい。 「優しくするから。カナのこと、絶対に幸せにするから。お願い。嫌いにならないで」 あがる吐息の中、遠くの方で千尋の声が聞こえた。 2人の間に挟まれた哉太の中心も、触れ合う肌のぬくもりに次第に硬くなっていく。それを肌で感じたのか、千尋は少しずつ角度を変え、位置を変え、ゆっくりと腰を動かしていく。 「……あッ………や、……ッ!」 腸液が潤滑油になり、半分くらいまで出し入れが容易になる。内臓ごと引きずり出される感覚が与えられたかと思えば、次の瞬間には一番奥を打ち付けられ、目がチカチカするような刺激を与えられる。耐えられず欲を吐き出せば、その隙に最奥を連続で刺激され、あられもない嬌声を強要される。 余韻に肩で息をすれば舌を絡め取られ、四肢に力が入らないことをいいことに、色々な体位を要求され、何が一番気持ちいいのか答えさせられる。何度、精吐き出したかわからない。何度、吐き出されたのかもわからない。 優しくない。全然優しくなんかない。 「ち、ひろッ……。も、やめろッ……!」 千尋に抱き抱えられながら、身体を揺さぶられ、幾度目かの精を吐き出しそうになる。 「あと、ちょっと。あ、もしかしてイキそう?それならちょっと待って」 「……ッ!ぁあ……!!な、に、」 哉太の煮えたぎった屹立の根本をぎゅっと握りしめられ、蒸気の噴出先を奪われる。 「今日はこれで終わりにするから、一緒にイこ」 腰を打ち付けられる音がだんだんと加速していく。声を抑える気力もないまま、千尋の手の力が緩むと同時に吐き出すものもほとんどなくなったソレを哉太の意識とともに、腹の上へ吐き出した。

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