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第14話
ぼんやりとくだらないテレビ番組を見ていると、バタバタと派手な音が玄関先から聞こえた。
「カナ、大丈夫か」
黒と白の水玉のパンツに、グレーのパーカー、その中には星柄のシャツが見える。千尋の普段着ではあるが、外出時には滅多に着ないコーディネートだ。可愛らしい柄物は好きなくせに、人には知られたくない、そんなポリシーを持ってきたはずなのに、その格好で小春に会ったのかと思うと自然と笑みがこぼれた。
「おせーよ、もっと早く来るかと思った」
「小春が泣き喚いて話にならないし、ようやく聞き出した公園行っても誰もいないし、カナは電話しも出ないし」
「スマホぶっ壊された。……小春ちゃん、ちゃんと家まで送ってった?」
「そんなことするわけないだろ。ちょうどバスケ部のヤツが通りかかったから、ソイツに押し付けた」
「誰だよ、ソイツ」
「よくカナと一緒にいるヤツ。名前なんだっけ」
そうはいうものの、千尋は名前を思い出すつまりはさらさらないらしく、哉太のもとへ歩み寄ると乱暴に顎を掴み上を向かせた。
「唇切れてる」
右へ左へ哉太の顔の向きを変え、怪我の箇所を探る。嫌がるように身体を捩ると、手首を掴まれ、強い眼差しで射抜かれた。
「顔、殴られた?」
「……殴ったのはバスケ部のコーチ。今日の試合、うまく行かなかったから」
「ほかは?」
哉太の答えを聞くまでもなく、千尋は服を脱がせ始める。トレーニングをしてもなかなか筋肉のつきづらい細身の身体がさらされ、思わず顔を隠した。
「痛い?」
主に左側につけられた内出血を一つずつ丁寧に触りながら千尋が問う。
怒っているのか、そうではないのか、指先の動きからはよくわからない。
「左側ばっかり」
「利き腕庇ってたから……。バスケ出来なくなると困るし、とりあえず殴らせといた」
頭上で軽く舌打ちをされ、さらに千尋の指が下に向かおうと臍を掠める。こそばゆい感覚に身体が軽くはねると、それを見逃さなかった千尋が指先で下腹をさすった。
「やめろ」
「カナ、ここ好きだよね。触っただけなのに、吐息が甘い」
「やめろって。そういう気分じゃない」
「やめない。これでも俺、怒ってんだけど。とりあえず殴らせるって意味わかんねー」
千尋は、哉太の臍をさすりながら、上半身につけられた内出血に一つ一つ唇を落としていく。
「どこの奴だよ、こんなことしたの」
「……北高の奴ら。なんか、小春ちゃんナンパするつもりだったらしいけど、俺が出てったから気に入らなかったらしい」
「本当に小春狙い?」
内出血に唇を這わせながら、千尋の指が哉太のベルトにかかる。
片手でベルトを外されると、寛げられたジーンズの中に冷たい指先入り込み、その冷たさに身体がはねた。
「どういう意味だよ」
「小春狙いだっていう割にはなんか、カナの態度が変」
「意味わかんねー」
「そういうとこ、変。……ほら、太ももの内側にあるこれ、なに」
ジーンズをすべて脱がされ、脚を大きく広げられる。千尋が撫で上げるそこに、赤い鬱血が広がっている。
「そこは、違う……ッ」
「違うって何と違うの。さっきの口ぶりだと殴られて終わりみたいだったけど、なんでこんなとこにこんなものついてるの」
足首から足の付け根まで念入りにチェックされ、試合中のかすり傷ですら口を寄せられる。
緩く湧き上がる熱情を隠そうと口元に手の甲を押し付けると、その瞬間、千尋の手のひらが右足のテーピングに触れ鋭い痛みが全身を走った。
「痛い」
「これも北高のやつら?」
「そうだけど、違う。北高とのバスケの試合中に捻った」
「ふーん。小春目当ての奴らが北高で、バスケの対戦相手が北高なのはなんか関係あんの?わざわざ、こんな太ももにキスマークつけてさ。俺でもつけたことないのに」
赤い鬱血の上から、軽く歯をあてられ、薄く柔らかい皮膚が悲鳴をあげる。
千尋がもぞもぞと動くたびに、その髪の毛が、額が、哉太の中心に触れ更なる熱情をそそった。
それに気づいているのかいないのか、千尋は哉太自身には触れずに太ももを執拗に舐め続ける。
「カナ、今からの質問に嘘つくなよ。嘘ついたら、本気で首輪つけて一歩も外に出られないようにするからな」
太ももに唇を寄せながら千尋がキツい眼差しで哉太を見つめる。
「ここに痕つけたの、ほんとに小春目当てのやつ?」
今にも噛みつきそうな勢いで言われ、思わず視線を反らす。久しぶりに本気で怒っている千尋を目の当たりにし、背筋がざわついた。
このスイッチが入った千尋は、やると決めたことは必ず実行する。
強張らせていた全身の力を抜き、ソファに体重を預ける。手の甲で顔を隠しながら、口を開いた。
「そこやったのは、北高のバスケ部のやつ」
「小春目当てのやつは」
「北高の応援団」
「……なんでバスケ部のやつが登場すんの」
「最初、北高の応援団だけだったんだけどさ、足、今日の試合でやったから俺がバスケ部だってバレてさ。……前に他校の女子から手紙貰ったって言ったじゃん。 それ、北高のバスケ部のマネージャーで、俺が何にも返事しなかったからって、北高のバスケ部の中で俺が気に入らねーって話になってたらしく、追加で呼ばれた」
ちらりと千尋に視線を投げるが、じっと見つめ返されるばかりで相槌すらない。
話せという無言の圧力に、仕方なしにさらに口を開いた。
「俺が今日の試合、不甲斐なかったから、奴らくすぶってたらしくて。俺が、北高のマネージャーを無視したのは……その、…オンナよりオトコの方が好きだからだろって言われて、なんでオンナ庇って殴られてんだよってキレられて、ほんと意味わかんねーんだけどさ」
「それで、何された」
「その、痕、つけられた」
そこまで言うと、千尋はがぶりと哉太の太ももに噛みつき、赤い鬱血の上から新たな傷跡を残していく。
「ほかは。ここ、触られた?」
今まで決して触ろうとしなかった中心に唇を添え、言葉が発される。
「……触られた、ッ……!」
言葉を紡いだ瞬間に下着の上から全体を口に含まれ、生暖かい感触が身体の芯に伝えられる。
先ほどからの千尋の行為に、緩く熱を帯びていたソレは一気にその硬度を高めた。
「触られて、勃った?こんな風に」
「……答えたくない」
「扱かれて、出した?」
「出してない!」
声を荒げ、ソレが先の質問の答えになっていることに気づき、視線を彷徨わせる。
「それなら、ここは」
秘められた最奥を指先でトントンと刺激され、顔が赤らむ。
「そんなとこ、触らせるわけないだろ。頭おかしい」
「ふーん……」
軽く舌なめずりをして、再度、臍に口を寄せるとそのままゆっくりと身体の中心に沿って舌が這い上がる。
ゾワゾワとする感触に思わず抵抗して腰をあげると、その隙に千尋の腕が哉太の背に滑り込み、抱きしめられる。
「んぁッ……!」
身を捩って逃れようとした刹那、外気に晒されていた胸の突起に生温い吐息がかかり、思わず喘ぎが口をついた。赤く熟れた胸の突起に触れぬよう千尋の舌が這う。その合間に髪の毛が避けられた両の先端をくすぐり、身体が跳ねる。
恥ずかしい。
「ここ、舐められた?」
時間をかけて焦らされた後に、両の突起に軽く歯をたてられる。ようやく与えられた甘美な刺激に思わず声が溢れた。
「舐められて…….な…いっ」
気を抜けば恥じらいもなく喘いでしまいそうな刺激に、より一層強く手の甲を噛んだ。
「じゃあ、触られた?」
噛まれた突起をピンっと弾かれ、全身に稲妻が走る。
容赦のない責めに追い詰められ、仕方なく首を縦に振る。首筋まで舌がたどり着くと、先日と同じ場所を吸われ、薄くなった印を上書きした。
口を覆う手をどかされ、耳たぶを噛まれる。ねっとりとした感触に包まれ、千尋に聞かれる前に首を横に振った。
「あとは、ここ」
ぎゅっとつむった瞳や、深く感情をのせた眉間に唇を寄せ、哉太の唇に千尋の人差し指を添えた。
「キスした?」
視線を逸らし頷くと顎を掴まれ、無理矢理上を向かされた。
「キスは好きな人とするもんだよね。教えただろ。カナの一番好きな奴は誰」
払いのけられた両手の甲で、瞳を隠す。しかし、千尋はそれを許さず、両手を頭上でまとめ上げた。
「行ってきますのキスも、仲直りのキスも、ごめんなさいのキスもしている、お前の一番は誰だ」
視線を逸らしても元に戻され、手足をばたつかせても封じ込められる。
「哉太、答えろ」
名前を呼ばれ、ずくんっと官能が走り、それを追うように唇の端を軽く噛まれる。逃げられない。仕方なく哉太は小さな声で千尋の名を呼んだ。
「千尋。千尋が一番好きだ」
よくできましたと微笑まれ、口を吸われる。舌を絡められ、執拗に蹂躙された後に離れていった。
物足りない。そう思ってしまう自分が嫌らしく思えた。
「あ、まだあと聞いてないことあった」
足の先から頭の先まで余す所なくチェックが入ったにもかかわらず、千尋が言う。哉太の手を掴み、それを自身の象徴に当てがった。
その硬さにもそうだが、質量にもはっと息を飲む。
哉太の手の上からぎゅっと握りしめると、わずかに千尋の目に色が灯った。
「誰かの、触った?」
哉太の手の上から自身を扱き上げ、形を確固たるものに変化させる。
無駄に扇情的だ。千尋の色気に惑わぬよう視線を外す。
「…………触った」
声に出した瞬間、二人の間に緊張が走る。
質問をされるより前に、哉太は小さく舌をだし、それを指差した。
「ここに、つっこまれた」
獣のように瞳が光る。殴られるかと思った。それくらい獰猛な眼差しで哉太を見つめたあと、ふっと緊張を解いた。
「飲んだ?」
「……吐き出した」
よく出来ましたと、あやすように頭を撫でられ、膝裏と脇の下に腕が差し込まれる。重力が哉太の代わりに抵抗をするが、そんな抵抗はものともせずに千尋は哉太を抱え上げた。
「なんだよ、急に」
「ベッドいこ。今日は長くなりそうだし」
「長くなるって何が……」
「気持ちいいこと、しよ。ね」
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