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第1話

 大学受験の合格発表の日。窓から見える空は、嫌味なくらいの快晴で、雲一つない。俺は一人、自分の部屋に籠っている。  今頃、二人は一緒に同じ大学に向かっている。  いまどき、合格発表をネットで確認できない国立大学って、どうなんだろうって思うけど、二人はその大学を目指してた。同じ夢を追っていたから。  高校に入って最初に同じクラスになった、祐樹と咲良。  人見知りの俺に最初に声をかけて来てくれたのが前の席に座っていた咲良で、咲良の隣に座ってた祐樹もよく話かけてくれた。それぞれ別の中学から入ってきたけれど、なんとなく気が合った。そんな俺たちは、いつの間にか、三人でいることが多くなって、それがいつものことになって、日常になっていた。学年があがって、クラスが変わっても、いつも俺のところに来てくれる咲良と、咲良と一緒にくる祐樹。  友達が多くない俺には、ありがたい存在で、二人がいてくれればいい、と思ってたのは、三年になるまで。  三年になり、互いの進路の話になった時、初めて二人の夢が同じで、同じ大学を目指してるという話を聞かされた。それ以来、三人でいると俺一人だけ居心地悪く感じてた。そんな俺の気持ちなんか、きっと二人は気付いてなかったんだと思う。  一緒にしゃべってても  一緒に遊んでても  一緒に勉強してても  普段通りにしているつもりだろうけれど、俺には見えてた。  祐樹が咲良を見つめる瞳が、どんなに優しいものだったか。  祐樹が咲良の話を聞いている時の表情が、どんなに嬉しそうだったか。  ずっと、ずっと、祐樹のことを見てたから。  そして咲良も、同じ夢を見る仲間以上に、祐樹のことを想ってるっていうのも。  二人とも好きだけど、二人とも嫌い。  自分が祐樹を好きだと認識したのは、教室で祐樹と二人きりになって、咲良のことを待っていた時。夕陽に照らされた祐樹の横顔が美しくて、思わず見惚れていた。そんな俺に気付いても、少し不思議そうな顔をしてから、照れ臭そうに笑った顔が、俺の胸を貫いた。  今まで、女の子に対して興味があまりなかったし、恋愛感情というのも、よくわからなかった。一緒にいつもいる咲良に対しても、そういう目で見たこともなかった。それなのに、祐樹に対しては、些細な反応にも胸がときめいてしまった。  このまま友達のまま、ずっと一緒にいられるならいいと思っていたけれど、それも、二人の仲睦まじい姿を見せつけられるようになって、もう限界だと思った。それなのに、その状況から離れられないでいる。そんな自分が、一番嫌だった。  携帯に同じタイミングで、二人からメッセージが届く。 『いってくる』 『いってきます』 「……仲のよろしいことで」  携帯の画面を見つめながら、ため息が漏れる。  きっと仲良く一緒にいるんだろうな。同じ電車で、隣に座って、楽しそうに話している姿が想像できてしまう。  どっちかが落ちちゃえばいいのに。  俺の心の中にいる悪い心が、そう、呟いていてる。  二人の幸せな時間は、俺には苦痛の時間。  他のことを考えればいいのに、それができなくて、ずっと二人のことを考えている自分が嫌で嫌で仕方がない。一方で、自分の合格発表の時間までが、のろのろと近づいてくる。パソコンを立ち上げて、大学の合格発表用のページを開く。  手元には受験票。  両親は共働きで、今、家にいるのは俺一人だけ。音のない部屋で一人きりでいると、狭い部屋でも、寂しさとともに広く感じてしまう。 『ダメでも連絡しなさいね』  そう言って心配そうに出かけて行った母。ダメでもって、時点で、期待されてないんだな、と思ってしまう。大きく息を吸って、受験番号を入力しようとした時、携帯にメッセージが届いた音が響いた。  チラッと画面を見ると『合格!』の文字。  時計を見れば、あっちも合格発表が貼りだされた頃なのか、と思い、きっと、こんな風にメッセージを送ってくるってことは、二人とも合格なんだろうな、と勝手に思う。  携帯のメッセージを開けば、案の定、二人ともが『合格』の二文字。そして、仲良く写る笑顔の二人の画像までついてくる。  ……どんだけ俺を傷つければ気が済むんだろう。  俺の気持ちなんか知りもしない二人だからこそ、悪気もなく、仲のいい様子を送ってくるのだろう。これで、俺のほうが落ちてたら、悔しすぎる。  携帯をベットに放り投げて、再びパソコンに向かう。  ……よかった。  パソコンに表示された『合格』の二文字。俺もなんとか第一志望の大学に合格できた。  ホッとして、椅子に脱力していると、再び、軽快な着信音が鳴り響く。  咲良から『どうだった?』のメッセージ。  彼女のメッセージを見て、俺が落ちてたらどうするんだ?と思った。時々、相手の状況を考えずに言葉にする彼女に、イラッとする。今、まさにそういう状況。既読だけつけて、返事をしぶってると、今度は祐樹からメッセージ。 『どうだった?』  ……このメッセージを見て、無性に悲しくなる。祐樹からのメッセージなのに、その陰に咲良がいるのがみえみえで。二人ともが悪気がないのもわかるから、余計に嫌になる。それでも返事を書く気になれないのは、俺が弱虫だからなのだろうか。  素直に『合格した』と言えない自分。  一緒に祝えない自分。  流れてくるのは、嬉れし涙のはずなのに、どうしてこんなに悲しいんだろう。  結局、二人からのメッセージには夜になってから返事をした。当然、『おめでとう!』の返事はきたけれど、その言葉に喜びを感じることもできずにいる。素直じゃない。自覚してても、できないものはできない。

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