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朝食

目が覚めると隣で寝息が聞こえる幸せ。 そんな経験は初めてで、それが高嶺さんだってことが堪らなく幸せなんだ。 朝は何作ろう… 妄想してた時はあれこれと作ったりしてたけど、まさか現実になるなんて思っても見なかった。 人生捨てたもんじゃないな…って実感してる。 絡まった腕をそっと外して、こそっとベッドから抜け出した。キッチンに立つと音を立てないように準備を始める。 和食かな?高嶺さんの笑顔を思い浮かべるとにやけてしまう。 準備してたら後ろから抱きしめられて…なんて妄想して真っ赤になる。 だって僕のベッドで高嶺さんが眠ってるんだよ。僕の部屋に高嶺さんがいて昨晩は… ダメだ。朝食準備が手につかなくなる。 妄想を振り払うようにブルブルと頭を振った。 お味噌汁と鮭、ご飯炊かなきゃ… 時間がかかるものから取り掛かり、手際良く準備していく。 何度か振り返っては高嶺さんの様子を見ながら音を立てないように着々と準備していった。 ローテーブルに並べ終え、高嶺さんを見る。 頭からすっぽり布団を被ってひょこっと髪が覗いてる。それがなんだか可愛くてそっと触れて見た。 見た目より柔らかい髪が愛おしい。 「高嶺さん、朝ご飯出来ましたよ。一緒に食べませんか?」 なのに声を掛けても反応がない。 布団の上から少し揺さぶってみる。だけど全然反応がない。 どうしよう…もしかして寝起き悪いのかな… そっと布団に手を忍ばせてみようとドキドキしながら隙間から手を差し入れた。 その瞬間視界が逆転し、ベッドの中にすっぽり収まった。 真上には高嶺さんの優しい顔。 「おはよう、隼人」 ゆっくり落ちてきた唇を隙間なく受け止めたくて手を伸ばす。届いた首元に腕を回して引き寄せて抱きしめた。 高嶺さん…大好き。 すぐに離れた唇を追いかけようとした僕を高嶺さんがクスッ笑った。 「止まらなくなるから、先に頂くよ」 先に頂く…先に頂くのは僕じゃないのか… でも高嶺さんの為に作った朝食を一緒に食べなきゃね。 起き上がった高嶺さんに付いて僕も起き上がり、キッチンへと向かう。 お味噌汁をよそってテーブルに置けば目の前の優しい瞳が僕を見つめる。 「ありがとう、隼人。誰かに作ってもらうのは嬉しいね」 手を綺麗に合わせて「いただきます」と箸を取る。 一口口に含んだお味噌汁を「うまいねぇ」って笑顔で豪快に頬張っていく。 嬉しいなぁ…好きな人が僕の作った料理食べてくれるのって… 上手く出来たお味噌汁も絶妙な焼き加減の鮭も、吸い込まれるようにお皿から無くなっていった。 「ご馳走様でした」 そう手を合わせた。 は、早い…結構な速さで食べた高嶺さんは「ごめん、いい?」そう言って鞄からタバコを取り出した。 そう言えば昨日から吸ってない… 僕に気を使ってくれてたんだ…そう思うと嬉しくて、ご飯を噛み締めた。 すっかり食べ終わった食器を片してベランダに出た高嶺さんを追う。 空に向かって紫煙を吐き出すその背中に躊躇いなく腕を回して抱きしめた。 「隼人?」 優しく呼ぶ僕の名前が耳に届く。 「高嶺さん…ありがとございます…」 僕を好きになってくれて。 僕の部屋に来てくれて。 僕が作った朝食食べてくれて。 沢山のありがとうを込めて伝えたかった。 「こんな風にくっついてくれるなら寒くても外でタバコもいいよね」 回した手を握り締めながら大きく息を吐いた高嶺さんの背中に耳を当ててうんうんと頷く。 胸がいっぱいで返す言葉が出てこなくて離さないと言わんばかりに抱きついた。 高嶺さん…初めて二人で食べた朝食は一生忘れないよ。 忘れないで下さいね。

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