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千歳の章12(1)
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部屋に戻ってからというものの、鈴懸の様子はおかしかった。ベッドの上で、まるで織を檻に閉じ込めるようにして抱き締めている。そして、まるで番 を求めるかのように首筋を、がじがしと噛んでいるのだ。
「ん、……」
首筋を噛まれるのは、当たり前だが、痛い。しかし織は……頬を紅潮させ、甘い吐息を唇からこぼしていた。
鈴懸の気持ちが、痛いくらいにわかっていたから。織が望まないお見合いをし、断ろうにも断ることができずにいる。恋人である織が他の人間のものになってしまうのではないかという恐怖、しかし織の気持ちを汲んでそれを止めることもできない拘束感。雁字搦めになった鈴懸の心が、鈴懸にこのような行動をさせていた。
「織……俺のものに、なって欲しいのに、……織」
「あっ、」
鈴懸が織をうつ伏せに押し倒し、手首をシーツに縫い付けるようにして掴む。そして、今度は思い切り、うなじにがぶりと噛み付いた。
「あぁっ!」と甲高い声をあげて鳴く、織。本当は断りたいのに断れない、そんな苦しみが。鈴懸に執心をぶつけられることによって、ほんのりと、やわらいでゆく。
「織……」
「あっ……」
鈴懸が織の着物の帯を解き、織の手首を後ろ手に縛ってしまう。鈴懸にそのようなことをされのが初めてだった織は、驚きと同時に興奮を覚えてしまって、全身の肌を粟立たせた。
「そんな、っ……鈴懸、……」
「無理やりにでも、おまえを俺のものにしたい、……織……俺の体しか、受け入れられないようにしたい、織……織、どうしよう、俺……抑えられない、」
「……ッ、」
凄まじい程の、劣情だった。燃え盛る業火のような、熱だった。
織はその熱さにあてられて、思考回路を破壊されてゆく。ただ、鈴懸のものになりたいという想いだけが、剥き出しになってゆく。鈴懸の恋情という名の炎に焼かれることに全身が悦びを覚えていて、毛穴という毛穴から汗がしとどにこぼれ落ち、下腹部がぐんと熱を持つ。
「俺だけの織……放さない」
ぐっと後ろから顎を掴まれて、顔を持ち上げられる。そんな少し乱暴な動作にすら織の体は熱くなって、奥の方がきゅんとしてしまった。鈴懸はそんな、期待に満ち溢れた表情をしている織の顔を横から覗き込み、じっとりと熱を孕んだ瞳で見つめあげる。
「その唇で、俺以外の名前を呼んで欲しくないんだ、織……」
「……っ、俺も、……貴方以外の、名前を、……呼びたくない……」
「……舌を、切り落としてしまいたいくらいだ、織……」
強烈な、独占欲。それを浴びる織は、ゾクゾクと体を震わせながら、鈴懸の言葉ひとつひとつに感じてしまっていた。じわりと下着のなかが濡れ始めたのがわかる。このまま、鈴懸のものになってしまいたい、鈴懸に永遠に閉じ込められていた……そんな欲望ばかりが織のなかに溢れてきた。興奮で肌をしっとりと汗ばませて、ゆらりと鈴懸を横目に見つめ。
「……噛みちぎってください……鈴懸……貴方以外の名前を呼ぶ舌なんて、いらない」
そう言って、織はぬっと舌を伸ばしたのだった。
「織、」
発情しきった顔で舌を伸ばす、織。あまりにも淫らな表情だった。
鈴懸はがぶりと織の唇を覆うようにして口付けをすると、じゅ、と織の舌を吸い上げる。「噛みちぎる」勢いで、思い切り、じゅるじゅると織の舌を舐めあげた。
「ぁうっ、うっ、ふ、ん、……んんっ、ぁうう」
じゅぽじゅぽぬぶぬぶと大きな音を立てられて、舌を翻弄されてゆく。顔をがっちりと掴まれているから、動くこともできない。されるがまま舌を絡め取られ、織は蕩けきった声をあげることしかできなかった。そして、鈴懸にそんな激しすぎる口付けをされたものだから……織は、イッてしまった。
「ぁうっ、うっ、んんっ、ふ、んんん、ぁひ、」
鈴懸に唇を貪られながらイクのは、なんて気持ちいいんだろう。手首を拘束され、頭を掴まれて、口内をめちゃくちゃにされて……そんななか、はしたなくちょろろろろ……と潮を吹いてしまうのは、なんて、気持ちいい。
織は完全に組み敷かれ、鈴懸の所有物にされた状態でイクことに、たまらないほどの酩酊感を覚えていた。口からたらたらと唾液を零し、下着をぐしょぐしょにすることへの恥じらいも、吹っ飛んでしまうほどに。
「ぁあっ……はぁ、……」
「ほら、もっと……感じろ、俺のこと、体で覚えろ……織っ……」
「あっ……!?」
しゅる、と布擦れの音が織の耳を掠めた。刹那、ぼんやりと歪む視界が真っ暗になる。
「すずかけっ……」
「いいか、体で、覚えるんだ」
鈴懸が、自分の帯で織の目を覆ってしまったのだ。視界を奪われた織は、感覚が敏感になってしまい……ほんのすこし、鈴懸の指が肌に触れただけで、ビクンッ! と体を震わせる。
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