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千歳の章27

 カーテンから溢れる光で、織は目を覚ました。鈴懸にがっちりと抱きしめられながら寝ていたせいか寝返りがうてず、体が怠い。くあ、とあくびをしながら体を起こし、鈴懸を起こさないようにベッドをぬけ出すと、ゆっくりと着替えを始める。 「うわ、……すごい」  ふと、鏡を見れば。自分の体にびっしりとついた、鬱血痕が目に入った。下腹部を中心に、なかなかの量の痕がつけられている。つけられているときは暗くてここまではっきり残るものだとわからなかったが、こうして明るいときに見ると思った以上に破廉恥なものだった。  情熱的というか、支配的というか。どんどん増している鈴懸からの愛情に、織は困ってしまう。自分の愛情表現の下手さとか、情事の際にすぐにイッてしまうこととか……彼に、もらえた分の愛情を返せていない、そんなことを考えて。がんばってみよう、そう思ってもすぐ目の前には別の問題も立ちはだかっている。  恋ってこんなに難しいことだったのか……そんなふうに織は思いながら、ふと、ベッドで未だ寝ている鈴懸を見る。織の目に映ったのは……寝ぼけながらしかめっ面をして、腕をもそもそと動かして織を探している、鈴懸の姿。随分と、まぬけな姿だ。 「……鈴懸を信仰していた人たちが見たら、幻滅するだろうなあ」  織はふっと笑って、ベッドに近づいていく。そして、鈴懸の肩をとんとんと叩いて、彼を起こしてやった。 「ん、……なんだよ、織……ほら、早く……こっち、こいよ……、……ん」  目を半分しか開けないで、寝ぼけたことを言っている鈴懸。織はそんな彼の唇に、ちゅ、と触れるだけの口づけをすると、くしゃくしゃと彼の頭を撫でてやる。 「おはよう、鈴懸。朝だよ。もう、ベッドから出ないと」 「……」 「――えっ、ちょっ、うわっ」  朝の日差しよりも、眩しく爽やかな織の笑顔。鈴懸はしばらくそれをぼーっとしながら見ていたが、ハッと覚醒したその瞬間。ぐいっと織の腕を引いて、ベッドの上で織を抱き込める。 「す、鈴懸っ……シャツにシワできるっ……」 「……好きだー……織ー……すき……」 「……鈴懸」  ぎゅーっとキツく抱きしめてくる鈴懸に、織は吹き出した。強すぎる彼の愛情は受けすぎると困ってしまうこともあるが、やはり心地よい。  織は鈴懸を抱きしめ返すと、まぶたを閉じる。彼の匂いをいっぱいに吸い込むと、心が落ち着いていった。  ――すごく、緊張していたから。ずっとこうしていたいという甘えがでてきてしまう。今日――織は、有栖川との婚約を破棄したいと、両親に言うつもりであった。

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