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千歳の章29(2)

「……」 「どうした。俺、別の部屋に行ったほうがいい?」 「い、いや……」  千歳は部屋に入るなり、恐る恐るといった様子で視線を泳がせている。鈴懸がいるからだろうか――いつもよりも落ち着かない様子の千歳を不思議に思った織だったが、あることに気付いた。 「あっ、……あの、……し、失礼しました!」 「?」  「それ」に気付いた織は、慌ててはだけた自分の胸元や脚元を隠す。ついさっきまで、鈴懸とベッドの上で挿入はしていないもののまぐわっていた。織の胸や太ももには、その時につけられた鬱血痕が大量に散っていたのである。 「も、申し訳ありません……はしたない姿を……」 「……」  とんでもないものを千歳に見られた。それを恥じた織であったが――千歳は不快に思っている様子はない。むしろ……織が鈴懸につけられた痕に興味を持ったようで、すんすんと鼻をひくつかせながら織に近づいてきたのである。 「ち、千歳さま……!?」 「……甘い、匂い」 「わっ、あ、あのっ……」  千歳は今までの臆病をどこへやったのか、そのまま織との距離をつめてきた。そして、特に痕がいっぱいついている太ももに鼻を近づけ、鼻をすり寄せてくる。着物の中に潜り込まれた織はくすぐったくて逃げようとしたが――股間を下着の上からぺろりと舐められた瞬間、腰が砕けてしまってそれはかなわかった。 「あっ、……ち、千歳さまっ……そこ、だめっ……」 「……ここから、一番甘い匂い」 「やっ……あ、あぁあんっ……ちょ、……すずかけぇっ……見てないで、助けっ……あぁっ……」  ぺろぺろと布越しに舌でアソコを舐められ、織は腰をビクビクさせながら悶えた。虎のざらざらとした大きな舌で舐められるなんて、もちろん初めてで――未知の快感が、織を襲い来る。一瞬で股間は唾液でぬるぬるになり、そこをしつこく擦り上げられる。織が甘い声をあげてしまうのは、仕方のないことであった。  鈴懸はそんな織と千歳を見て、考えこむように眉を寄せていた。二人の様子が、妙だ――そう思ったのである。  意気地なしの千歳が、織の鬱血痕を認識した瞬間――過ぎるくらいに積極的になって、織の秘部を味わい始めた。興奮してしまったのか――そうも考えたが、それとはまた違うように思われる。まるで、織の「甘い匂い」に吸い寄せられるよう――そう感じて次に鈴懸が気になったのが、織が嫌がることなく感じていること。こうして見ている間にも、織は腰をかくかくと揺らして、自らアソコを千歳の押し付け始めている。 「んっ……んっ……あっ、そこ、……ぁんっ……あぁっ……」 「なか、から……もっと甘い匂い」 「あっ……ひ、ぁあっ……! 下着、やぶっちゃ、だめぇっ……!」  ――この現象に、鈴懸は見憶えがあった。そう――咲耶の念。  織が聞いた所によれば、千歳は咲耶にかざぐるまを貰ったわけでもなく、まして話したこともないのだと言う。だから咲耶の念の影響は受けていないだろう、そう決めつけていたのだが。遠くから見ていただけでも心を囚われてしまうくらいに、千歳は咲耶に魅了されてしまっていた――だから、多少その影響を受けている可能性がある。かざぐるまを貰った妖怪たちほどではないが、咲耶の呪いが発動してしまっているのかもしれない。  鈴懸は、今の千歳と織をみて、そう考えた。あくまで想像ではあるが、そう考えるのが一番自然だった。 「……」  では――千歳は、織を抱きたいと思っているのか。……といえば、それは違うようにも見える。千歳が惹かれているのは、「織から発せられる甘い匂い」。その、匂いの素は…… 「……千歳、おまえさぁ、……」  千歳が惹かれるもの。それは、鈴懸に恋をしている織だ。織が、一番幸せだと感じている――その姿に、千歳は惹かれている。  それを感じ取った鈴懸は、そのあまりのいじらしさに言葉に出来ない切なさを覚えた。好きだからこそ、奪わない。好きだからこそ、織の恋を見ていたい。そんな狂おしいほどのいじらしさは、鈴懸に目眩すらを与えた。  鈴懸はため息をつくと、千歳に襲われている織へ近づいていった。目を虚ろに潤ませながらのけぞってビクンビクンと震えている織……そして、そんな織の秘部をひたすらに舐めている千歳。鈴懸は織の後ろに回りこむと、はらりと織の着物を脱がせてしまう。 「……織を好きになるなら、まず、呪いを解いてからにしろ」  全裸になった織を、鈴懸が後ろから羽交い絞めにする。そして……身動きの取れない織のアソコを、千歳が解す。 「あっ、あぁ、あぁあっ、ひ、ぁあっ……」  きっと、このままだと千歳は幸せになれない。いつまでも、苦しい恋をし続けるだろう。織へ抱いた純粋なはずの恋心が、呪いによって捻じ曲げられる。臆病な恋心は、心が押しつぶされそうなほどの劣情へ。叶うことのない劣情が、やがて――心を破壊する。  心が透き通った千歳が、呪いによって苦しむだろう未来を想像し、鈴懸は胸を痛めた。だからこそ、決意する。千歳の呪いを解いてやらねばと。織への恋は、本当に純粋なものであって欲しい――そう願って。   「千歳……言ってみろ。おまえは、どんな織が好きだ」 「……竜神のおまえに、……心底惚れている織が、好き」 「……じゃあ、見せてやる。俺に触られて、めちゃくちゃになっている織を、見せてやるよ」  千歳が凝視するなか――鈴懸は織の唇を奪ってしまった。千歳が恋した、「鈴懸に恋をする織の姿」を見せてやるために。  虎の姿の千歳に秘部を責められてぐずぐずになっていた織は、突然鈴懸に口づけをされて、驚いたように目を丸くした。まさかこの状況で鈴懸にまでこのようなことをされるとは思っていなかったのだろう。何が起こったのか理解していないように、目をぱしぱしと瞬かせている。   「す、鈴懸、……」 「大丈夫だ、おまえは……可愛い声出していればいい」 「なっ、……なに、……んっ」  いつもよりも軽い呪いのせいか、織の意識は完全には飛んでいないようだ。少しずつ、自分の置かれている状況を理解し始めたらしい。  ――そう、鈴懸と千歳、二人から責められているのだと。

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