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千歳の章29(5)
勇気の一歩を踏み出すのには、恐怖が生じた。自分が変わってゆくということは、想像よりもずっと、恐ろしい。しかし、溢れる想いを吐き出してしまえばその言葉は予想していたものよりもずっと透き通っていて、朝霧のように儚く消えてゆく。甘い想いは空気に溶けいって、酸素となってまた吸い込まれてゆく。
千歳は言葉を吐き出したあと、また、織の胸に頬をすり寄せた。織は優しく微笑むと、千歳の頭を抱いて、その髪の毛を梳いてやる。
「千歳さま……もっと、言ってください」
「織――……! 織、……織……!」
「あっ――……!」
想いを爆発させた千歳が、ぐんっ、と腰を強くつきだした。その瞬間、織は甲高い声をあげて、くっとのけぞる。
「ずっと、……ずっと、好きだった、……おまえが、本当に、綺麗で……ずっと焦がれていた、……」
「あっ、あっ……! あぁっ……ちとせ、っ……さまぁっ……!」
「裸の、おまえも、……こうして、乱れているおまえも、……こんなに美しいなんて、……思わなかった、……余計に、好きに、なりそうだ……織、……もっと、もっと――……声を、聞かせてくれ……」
「あぁ――……!! はげし、……ちとせさまぁっ……!」
千歳が体をゆすり始めると、織は細かく体を震わせながら艷声をあげはじめた。貯め続けてきた想いを言葉にしながら千歳は何度も何度も織を突き上げて、必死になってその体を求める。まっすぐに織を見下ろし、熱に浮かれたその瞳に射抜かれ、織はもう、とろとろにとろけていた。「求められたい」、咲耶の想いが半分溶けた織の心は、千歳の必死さに快楽を覚えていた。
しかし、細く、白く、柔らかい、織の体。そんな織の体は千歳に貪られるのには少し華奢である。激しく求められるのを悦とする今の織であっても、見ている鈴懸としては少々不安を覚えるものであった。鈴懸は織を後ろ抱きにしてその矮躯を支えながらも、激しく突き上げられている織を心配そうに見ている。千歳が想いをぶつけられるようになったのは微笑ましいのだが……
「千歳。千歳。ここだ、ここ」
「……っ、……?」
「さっき、いじってやったところあるだろう。ここを狙って突いてやれ。もっと織が可愛い声を出してくれるぞ」
快楽よりも、奥を突き上げられることによって声をあげているという印象の織。見かねた鈴懸が、千歳に手引をしてやる。織の臍の下あたりを指でくるくると撫でて、織のイイところを教えてやった。
そうすれば、千歳は素直にそれに従った。鈴懸が指示してやった場所をめがけて、ぐっと腰を突き上げる。
「はぁッ――ん……!」
その瞬間の、織の声。あまりにも愛らしく、淫らで、華美な音色。千歳はその声に魅入られて、刹那、呆けてしまった。ぼんやりと、頭の中で残響として響く織の声を求め、もう一度――ソコを、突く。
「はっ、ひぃっ……! ぁあっ、あ、あぁっ……!」
「織、……かわいい、……」
織が顔を真っ赤に染めて、甘い声をあげる。千歳はそんな織を見て、無我夢中でソコを責め始めた。もっとこの可愛い織が見たい、もっと、もっと――
「千歳、やりすぎるな、ゆっくり、ときどき、強く」
「そうすれば、もっと、織は、気持よくなれるのか、」
「何事もやりすぎは禁物ってことだよ。織の体は繊細だから……優しく奏でてやれ」
鈴懸は織の顎をなでてやりながら、千歳に指南してやった。千歳はそれに従い、闇雲に腰を振ることはやめ、緩急をつけて織を責めだす。ぎゅーっと堅いモノで前立腺を押し込んでやったり、ゆるゆると中をかき回してやったり、そして時折思いきり突き上げてやったり。どんどん上手くなってゆく千歳の責めに、織もぐちゃぐちゃになってしまっていて、後ろから支えてくれている鈴懸にしがみつくようにして髪を振り乱しながら声を上げ続けていた。結合部はもうすっかり、びしょぬれになっていた。
「ぁっ、は……はぁっ、……あっ……ぁあっ……」
「織、……織っ、……イキ、そうか、……織、……可愛い、……織、……」
「あっ、いくっ、いっちゃ、います、……あっ、……あぁっ……」
織のナカが激しく畝り、千歳のものを締め付ける。織の絶頂の兆しを感じた千歳は、その織の姿があまりにも可愛らしくて、最後の理性の鎖を引きちぎってしまった。鈴懸に抱かれている織を奪い取るようにして抱きしめて、自分の体に閉じ込めるようにして織を突き上げ始める。
「織っ、織……好きだ……織ッ……好き、好き、……織――――……!!」
「あっ、ちとせさま、っ……あぁっ……あっ……あぁッ――……!!」
織は千歳の背中に爪をたてるようにして、キツく抱きしめ返し――絶頂した。天井を仰ぎ見て、ガクガクと体を震わせながら、性器から見事な噴水を吹き上げさせる。中にどくどくと注ぎ込まれる精液に悦を感じるように瞳を蕩けさせて、「あ、あ……」とうわ言のように声をあげていた。
「織、……」
しばらく、織は荒く呼吸をしていた。やがて、堕ちていくように、静かに意識を失っていく。織が儀式の後に気を失うのはいつものことであるため、鈴懸はさして気に留めなかった。むしろ、千歳の様子のほうが気になってしまった。
千歳は、織を抱きしめたまま、ぼろぼろと大粒の涙を流して泣いていたのだ。糸が切れたように、止めどなくその涙は溢れ出る。
「千歳……大丈夫か」
「……ああ、……」
なぜ、そんなに泣いているのだろう。その理由の検討がつかず、鈴懸は不安を覚えた。しかし、千歳の涙はどこか美しい。
鈴懸はただ見ていることしかできなかった。織に縋り付くようにして、ひたすらに泣き続ける千歳の姿を。
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