166 / 225

白百合の章10

『まさかおまえが執行人になるなんて……運命、なんだな』  櫨の罪状は、果たすべき使命を果たせなかった――というものだ。罪を犯した人間の魂を地獄へ送らず、世に離したのだ。  僕が、その櫨の死刑を執行する役目を担った。拘束された櫨の首を落とすだけの、そう難しくない任務だ。 『……一撃でやらなければいけないなんて決まりはない。おまえは、俺を恨んでいるだろう。おまえの気がすむまでいたぶってから、俺を殺すといい』 『……別に、恨んでなんていない。櫨をいたぶるつもりもない。僕はただ、任務を果たす。僕の任務は、櫨の首を切ることだけだ』 『……そうか』  優しく微笑む櫨に、刀の切っ先を押し付けた。  一撃で、やる。そう覚悟して、僕は刀を振り上げる。  刀が櫨の首を飛ばす瞬間――櫨は、僕の知っている、温かい声で囁いた。 『……泣くなよ、吾亦紅』

ともだちにシェアしよう!