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白百合の章10
『まさかおまえが執行人になるなんて……運命、なんだな』
櫨の罪状は、果たすべき使命を果たせなかった――というものだ。罪を犯した人間の魂を地獄へ送らず、世に離したのだ。
僕が、その櫨の死刑を執行する役目を担った。拘束された櫨の首を落とすだけの、そう難しくない任務だ。
『……一撃でやらなければいけないなんて決まりはない。おまえは、俺を恨んでいるだろう。おまえの気がすむまでいたぶってから、俺を殺すといい』
『……別に、恨んでなんていない。櫨をいたぶるつもりもない。僕はただ、任務を果たす。僕の任務は、櫨の首を切ることだけだ』
『……そうか』
優しく微笑む櫨に、刀の切っ先を押し付けた。
一撃で、やる。そう覚悟して、僕は刀を振り上げる。
刀が櫨の首を飛ばす瞬間――櫨は、僕の知っている、温かい声で囁いた。
『……泣くなよ、吾亦紅』
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