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白百合の章29

「どうした、辛気臭い顔をして。これから花嫁になるヤツの顔には思えんな」  縁側に座る僕に話しかけてきたのは、玉桂だ。僕は一週間後に櫨との婚姻の儀を控えているのだが……今の僕は、そんな幸福を先にした顔には見えないらしい。その原因は、先日出逢った咲耶という人間にある。あんなにも悍ましい魂を初めて見た僕は、あの時に感じた嫌悪感を未だに引きずってしまっているようだ。 「旦那。呪われた魂って、どうなるの?」 「……どうしたんだ、急に」 「人間界に行ったときに、鬼になりかけている人間に会ったんだ。罪のある魂は、大王が罰してくれるでしょ? でも、もし罰してくれる人がいなければ……どうなるんだろうって。呪われた魂は、肉体が死んだら本来はどこへ向かうの?」  罪を抱えた魂は、いくらでも見たことがある。それは日常的に見るものだったから、僕はなんとも思っていなかったが……咲耶のような、あそこまで穢れ切った魂を見て、僕は考えてしまったのだ。罪を抱えた魂は、どこへ行き着くのだろう。「罰する者」がいて、「魂を救う」のだとしたら、「罰する者が存在しない」場合は「どこかへ堕ちる」ということだ。むしろ、後者が自然の流れであって、「罰する者」はその自然の流れを妨げて、違う道へ誘導しているということになる。だから、僕は考えたのだ。罪を抱えた魂は、「どこへ堕ちる」のだろうと。 「ふむ……そもそも魂は、自然と新しい命として生まれ変わると言われている。穢れていても、いなくても、関係なくだ。ただし、魂が穢れていた場合、その穢れをきちんと浄化しなければ、新しい人生もまた呪われてしまうと言われている。まあ……そもそも生まれ変わることを拒絶してしまえば、妖怪や鬼として生きることになるのかもしれないが」 「はあ……じゃあ、櫨たち使者や執行人がやっているのは、生まれ変わらせるための作業っていうよりは、生まれ変わってから新たな人生を送れるように穢れを祓ってやる作業ってことか」 「そういうことだな。おまえの夫は大変な仕事をしているんだぞ」 「夫っていうには気が早いよ」 「ふん、そんなことはない」  玉桂の話になるほど、となる。それならば、あの咲耶の魂も、きちんと罰せれば新しい人生を送れるようになるということだ。もしも罰することなく生まれ変わってしまったら……と考えると恐ろしいが。あそこまで穢れた魂がそのまま生まれ変わってしまったら……その新しい命は、どれほど惨い人生を送ることになるのだろう。 「おまえの会った人間は、そんなにひどい魂を持っていたのか」 「……ううん、まあ、すごい。でも、きちんと罰することができれば、新しい人生を送れるんだろう。そう思ってみれば、あの人間のことをそこまで憐れむ必要もないか」 「そうだ、今のキミは他人のことで悩んでいてはいけない。結婚するんだぞ。もう少し明るい顔をせぬか」 「……うん。そうだね」  玉桂の言う通りだった。咲耶は、きっと来世で救われる。僕はそれをただ祈っていればいい。僕は僕の幸せを、謳歌しなければいけないのだから。鬼として生まれてしまった以上、僕はもう生まれ変わることはできないのだから、精一杯にこの魂を幸せにしてあげなければいけないのだ。  

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