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白百合の章56
玉桂の言っていたことは、正しかった。白百合のおかげで浄化されていたと思われた咲耶が、また――妖怪たちと交わりだしたのである。白百合との約束を破り、ふらふらと妖怪と会うようになってしまっていた。
「咲耶……あいつ、妾との約束を忘れおって……何回目だ」
白百合は咲耶に約束をすっぽかされて怒っていることが多くなった。今度は呪われてしまっているらしいですよ、なんて声をかけるわけにもいかないので、僕はそんな彼女をことを隠れてみていることしかできなかったが。
「ふん……自ら呪いを振りまくからそうなるのだ。なんだあのかざぐるまは」
……白百合は、かざぐるまのことを知っていたのか。
玉桂や、白百合――妖力の高い神は、咲耶のかざぐるまの正体に気付くのかもしれない。彼女が抱く怨念も、呪いも、すべて。気付いたところでどうかできる問題でもないが。実際に、白百合が彼女の魂を浄化しようとしても、かざぐるまの呪いに打ち勝つことはできなかったのだから。
白百合は樹に寄り掛かりながら、ぼんやりとしていた。
白百合も、かわいそうだななんて思う。肉欲に友情が負けてしまったのだから、やりきれないだろう。
「……妾には、かざぐるまをくれないのだな」
――不意に彼女が呟いた言葉。
僕は耳を疑った。
かざぐるまの正体を知りながら彼女は何を言っているんだ――僕は驚きのあまり声を出しそうになった。
そんな僕になど気付いているわけもない白百合は、ふらりと立ち上がると……どこかに行ってしまった。
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