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第1話
どこにでもあるビルの屋上。そこから、若手人気アイドルの看板が大きく貼り出されているのが見える。
ここは、僕のお気に入りの場所だ。仕事帰りにここに来て、お気に入りのタバコを一服するのが日課だ。
「元気にやっているようで、なによりです」
紫煙をくゆらせる。煙の先をジッと眺めながら僕は、手に持っていた花束を看板に向って掲げた。
「ハッピーバースデー、秋野春吉」
風で花びらが散る。花びらが運ばれていくのを眺めながら僕は、懐かしいあの幸せだった日々に想いをはせた。
秋野春吉に出会ったのは、なんてことなはないよく晴れた日の夕暮れだった。
暗く、友達もいなかった僕は教室の掃除当番を押し付けられ、一人黙々と薄暗い教室の中を掃除していた。
「……なんだ、お前。一人か?」
がらり、と教室を入ってきた秋野に声をかけられ驚いた僕は、彼の問いに答えることができずただ彼を見つめていた。
「薄情な奴らだな…………ほら、ほうき貸せ」
「え、なんで?」
「手伝ってやる、お前はこっちな」
なかば奪われるように、ほうきをとられ代わりに、ちりとりを渡された。ゴミを回収するしか仕事がない僕は、黙々とほうきではいていく秋野の後ろすがたを眺めていた。
「うし、これでいいだろう」
きちんと整列した机と椅子をながめ、秋野は深いため息をついては床へと座った。
「ありがとう、ございます」
「いいよ、べつに……手伝いたかっただけだし」
照れくさそうに、そっぽをむいた秋野は、自分の隣の床を叩いた。
「お前も座れ」
「……うん」
ちょこんと隣に座ると、肩が触れそうで触れないこの距離になぜだか胸がざわついた。
「あ、の、秋野くんは、なんでこんな遅くまでいたの? 掃除当番?」
「ちげぇーよ、俺は……」
ぐっと押し黙ったのをみて、首を傾げる。たぶん、きっと、友達ではない僕には言いづらいことなのだろう。
「いいよ」
「へ?」
「秋野くんが、言いづらいことならいいよ」
もう聞かないよ、と安心させるように笑う。すると、秋野は大きく目をひらかせた。
「…………ってたんだ」
「え?」
「だから……その、歌ってたんだよ」
恥ずかしそうに、ごにょごにょと喋る姿が珍しくて思わず笑みをこぼした。
「きいてみたいな……秋野くんの歌」
「は!? 俺の歌なんて人に聴かせられるレベルのものじゃないし……」
「ダメかな」
「…………このこと、ひみつにしてくれるなら」
「ほんとに!? ありがとう」
それから放課後、毎日僕は、秋野の歌声を聴く日々が続いた。
場所は、誰もいない学校の屋上。秋野の歌声に耳をすませながら僕と秋野は穏やかに過ごした。
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