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第4話
12月25日、世間はクリスマスだが今日は、秋野春吉の新曲の発売日だ。
僕は、予約していた店に取りにいくとそのまままっすぐ家へと帰る。この曲は、封を開けずにしまっておこうと決めていた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
いつかとは逆で、母親が僕の声にこたえた。母親は、嬉しそうにこちらを眺めている。
「お客さんよ」
僕に誰かが訪ねてくるのは珍しいことで、首を傾げなからも応接間へと向かう。
「久しぶりだな」
そこには、秋野春吉が座って待っていた。
「……秋野くん」
「とりあえず、座れよ」
秋野は、自分の前のソファをさすと僕にそう促した。
「どうしたの、突然」
いや、今日きた理由もなんとなくわかっている。けれど、僕は何も気づいていないフリをした。
「なんで、断ったんだよ」
「え?」
「作曲、頼んだだろ」
あぁ、やはりそのことか。
僕は、にっこり笑って、彼に言った。
「ピアノは、もう弾かないって決めたんだ」
こんなこと言って、秋野は怒るだろうか。それとも呆れるだろうか。
「じゃあ、俺のこと嫌いになったとか。そんな理由じゃないんだな」
「え? うん」
よかったと喜ぶ秋野をポカン、と見つめた。
「あの日言えなかったこと、言わせてくれ」
その瞬間だけ、世界の音が消えた気がした。秋野の口がゆっくり動く。
「好きだ」
秋野は、僕の答えも聞かずにくちづけをおとした。
「ぼく、返事してないのに」
「あ、そういえば……でも好きだろ?」
「せっかちだね、君は」
僕は、笑って彼の頬にくちづけを返した。
答え合わせをしよう、そう言って秋野くんは今日発売したCDを取り出してかけはじめた。
僕は、この曲を聴き終わったころにはきっと彼の依頼に答えているのだろう。
別れの曲ではなく、今度は幸せいっぱいのラブソングを彼に歌ってもらいたいから。
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