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第29話
次の日の朝、蒼斗は晴人が目を覚ます前に家を出た。
下に着くと、控えていた佐久間の車に乗り込む。
「おはようございます。」
挨拶以上の会話を交わすことなく窓の外を見つめた。
程なくして車は屋敷に到着した。
「お帰りなさいませ。」
メイド達の挨拶を躱して、ノックもなしに博光の部屋の扉を開けた。
「やっと別れる気になったか?」
博光はいきなり入って来た蒼斗に目もくれず、手元の書類を捌きながら言った。
「開口一番それですか。」
蒼斗は苛立ちを隠しきれず、拳を強く握り締めた。
「先方はいつでも迎え入れられるそうだぞ。」
そんな蒼斗の様子には気付かず、博光は言葉を続けた。
「佐久間さんまで遣って、そんなに俺が気に入りませんか。俺は晴人と別れるつもりはありませんよ。」
耐えきれなくなった蒼斗は、握り締めた拳を博光の机に叩きつけた。
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