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愛してます、先生
あれから1年後。
現在 朔夜と同棲している俺は珈琲を2つ淹れる。
『しつこい』と自分で言っていた通り、朔夜は少しでも暇さえあれば俺のところに来て(二人っきりの時限定だが)口説きに来たり、休みが合えば出かけようと毎回誘ってきた。
色々悩んだり戸惑ったりしたけど、最終的に居心地がよくずっと傍にいたいと思った俺は、卒業式の夜に朔夜の手を取った。
それからが早かった。とっても早かった。
OKを出した翌日、朔夜は朝一番で俺の家に来て『同棲しよう!』といくつかの物件をピックアップして資料を持ってきた。資料に書かれていた『♡新婚さんにオススメ♡』の文字に俺は絶句した。
あの衝撃は一生忘れない。
そして1週間で引越しの手続きを全て済ませて今に至る。
その行動力はもっと違う所で発揮した方がいいと思う。と言うと『和雅さんと少しでも一緒にいたくて』としゅんとした顔で言われた。
そんな可愛いことを言われたら文句があっても何も言えない。
「でも幸せそうでよかったわ」
珈琲を受け取ると彼女はふんわりと柔らかな笑みを浮かべる。
絹糸の様なロイヤルミルクティー色の長い髪がサラリと揺れる。
「初めに聞いた時はどうなるかと思ったけど。朔夜くん?もしっかりした子みたいだし」
「ああ、美雨のおかげだよ。美雨がいるから今の俺があるし。だから、ありがとう」
俺は事ある事に相談していた彼女にお礼を言う。と同時にドアが開き、恋人は俺めがけて抱きついてきた。
俺はいきなりの出来事で受け止めきれず、その場で倒される。
「和雅さん、ただいま・・・その人は誰ですか?浮気ですか?」
「・・・話には聞いてたけど、なかなかキャラが濃い子ね」
「落ち着け朔夜。誤解だ」
「じゃあ誰ですか?和雅さんが女性から相手にされるなんて事あります?」
「そんなに俺って絶望的か!?」
「和雅、本当に幸せなのよね・・・?」
美雨は引き気味に俺に尋ねる。
俺は一旦 朔夜を引き剥がし隣に座らせる。
その時「あっ」と美雨が反応する。
「新田君じゃない!久しぶりね!」
「え、惠美 さん!?なんでここに!?」
「うふふ、弟に会いに来たのよ」
「ん?二人共 知り合いか?」
「結構前に大学のサークルに遊びに行った時の部長が新田君だったのよ」
「ちょっと待ってください!姉弟 って!?」
「私 結婚したから苗字が変わったのよ。結婚前は高坂 美雨よ」
俺の姉、惠美 美雨(芸名っぽいが本名だ)はうふふと笑う。
朔夜は俺らを見比べて、そう言われたら似てると呟く。
「和雅、あなた きっと自分が思ってる以上に彼から愛されてるわよ」
「え?なんで?」
「だって彼、元々ミルクティーが飲めないのに和雅を思い出すからって飲んでたのよ?」
「ミルクティーで?」
「髪の色がミルクティー色みたいだからよ」
隣を見ると微かに頬を赤くした朔夜は気まづいな表情でミルクティーを飲んでいた。
「お前、飲めなかったの?」
「・・・和雅さんが淹れてくれたのは美味しいですけど、本当は甘くて苦手でした」
「なんで言ってくれなかったんだよ」
「だって和雅さんが俺に初めて淹れてくれたのもミルクティーだったから・・・」
朔夜の言葉にじわじわと胸が温かくなり、頬に熱が集まる。
俺まで赤いのがうつってしまった。
「和雅。新田君。二人共、今の世の中じゃあまだ厳しいから公に出来なかったり、もしかしたらこれから色々言われたりするかもしれないけど。私は二人の味方だから、困った事があったらいつでも言ってね?」
じゃあ私、そろそろ帰るわね。と美雨は笑顔で帰っていった。
「・・・朔夜、お前 俺が浮気するって疑ってたんだな」
静かになった部屋で俺はジト目を向ける。
朔夜は申し訳なさそうな顔をする。
「だって、和雅さんは綺麗だから。少しでも目を離したら誰かに取られそうだし、人がいいからほいほいついて行ったりしそうだし」
「ほいほいって、子供じゃないんだから」
「でも優しいから断れないでしょ」
それは時と場合と内容による。
「約束通り、朔夜が嫌がるような事はしてないだろ」
「そうですけど、不安なんです。いつも和雅さんを堂々と独り占め出来る訳じゃないから」
・・・だから、少しでもオレが安心出来るように。
和雅さんがオレのだって証をつけたい。
朔夜はそういうと俺の右手の薬指にスっと指輪をはめた。
シルバーのシンプルなデザインだが、俺にとってそれは特別輝いて見えた。
「きっと俺、和雅さんに今後迷惑をかけると思います。仕事も助けてもらいっぱなしだし、独占欲も強いし、変に意地張るし・・・。でも、それ以上に和雅さんを絶対幸せにします。だから、俺とずっと一緒にいてくれませんか?」
学生時代と変わらず真っ直ぐに見つめてくる彼に俺はクスリと笑う。
「プロポーズみたいだな」
「和雅さん、オレ 真剣なんですけど」
「朔夜」
勇気を出して朔夜の頬に一瞬だけ唇で触れる。
「こちらこそ、こんな俺だけどよろしくな」
朔夜はスっと目を細めると、俺をいきなりお姫様抱っこで持ち上げる。
「和雅さん、抱きたい」
「意味分からないんだけど!?」
「和雅さんが可愛過ぎるのが悪い」
朔夜はスタスタと寝室に向かい、優しくベッドに降ろされた。
「お、俺を怖がらせてその反応を見て楽しむつもりか・・・」
「何言ってるんですか」
朔夜は俺の後頭部に手を回すと唇を重ねた。
抵抗しようするが啄むような優しいキスにだんだん力が抜ける。
朔夜は抵抗が弱くなった頃に、口を開けと俺の唇を舐める。
おずおずと小さく口を開くとそこから熱い舌が侵入し、俺のを絡めとる。
「っは、可愛い。和雅さん、目がとろんとしてる。・・・気持ちいい?」
「ふ、んぅっ、いちいち、聞くなっ」
朔夜はそれから角度を何回も変えて深いキスをする。
今だに息がうまく出来ない俺は苦しいと胸を叩いて訴える。
朔夜は俺の反応を見て満足げに俺から離れる。
そしてネクタイをしゅるっと外す。
チラリとシャツから覗く鎖骨から大人の色香を感じる。
「大丈夫です。和雅さん。怖がらせたりなんてしませんから」
ゆっくりと俺をベッドに押し倒した朔夜は、俺が見たことの無い、大人の男の顔をしていた。
「ぐずぐずになるくらい、可愛がってあげるだけです」
愛してます、と朔夜はもう一度俺にキスをした。
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