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無理でした、先生

ガタンっ!と俺は椅子から落ちる。 見上げるとそこには新田がいた。 「新田・・・?」 働かない頭を起動させながら、俺は尋ねる。 「今、俺に何をした?」 多分 今の俺は酷く驚いた顔をしているだろう。 新田は小さく笑ってみせる。 「何って、キスですけど」 「な、なんで・・・そっか!何かのジョークとか?俺が寝てたから からかってやろうって!お前身体張るタイプなんだな!でもそれは止めておいた方がいいぞ!」 頼む。どうか、冗談であってくれ。 いつもみたいに俺を呆れたような目で見ながら『職場で寝落ちとか、何やってるんですか』ってツッコミを入れて欲しい。 そんな思いは叶わず、新田はハッキリと言った。 「オレ、そんな簡単にキスとか出来ない人ですから」 「お前・・・」 「高坂先生、好きです。ずっと前から貴方の事が好きでした」 新田は座り込んで硬直する俺と目線を合わせる。 「じゃなきゃ貴方を追いかけて嫌いだった教師になろうだなんて思いません」 おいおい、マジか。 「い、いつから?」 「ハッキリとは覚えてませんが、卒業する時にはもう貴方しか見えていませんでした」 新田が俺の頬に手を添える。 ビクッと肩が跳ねる。 「大学生の時に1度だけ、先生に会いに行った事があるんです。でもちょうど異動してて会えなくて。それから何度も諦めようとしました」 新田は愛おしそうに頬を撫でる。 「先生とはこれからもきっと会えないって、だから諦めようって、大学で何人か女の子と付き合ってみたんですけど・・・でも先生の事忘れられなくて、諦めきれなくて。結局誰とも上手くいきませんでした」 空いている方の手が、俺の手に優しく重ねられる。 「気持ち悪いですよね。いきなりこんな事言われて。でも諦めようって思う度に先生への思いが強くなって、とまらなくって・・・」 「新田・・・」 「あだ名とか『和雅先生』って呼ばれるのを聞いて、オレもずっとそう呼びたかったのに、無邪気に貴方に近寄る彼女達は何も悪くないのに、羨ましさと嫉妬で先生に当たってしまって・・・」 「新田っ」 「あんな酷いことを言ってごめんなさい。 オレ、もう先生を辞め・・・」 「ま、待て待て!!」 俺は混乱する頭をなんとか落ち着かせる。 「俺の話を聞け!そして先走るな!」 「で、でも・・・」 「確かにああ言われたら凹むけどそこまでメンタル弱くないし、あれだけでお前を嫌いにはならないから!」 「本当に?」 新田は目を見開く。 「勿論、何年も経ってもお前は俺の可愛い生徒だから」 一気に不満そうな顔をされた。 「し、仕方ないだろ!?お前をそういう風に思った事ないし」 「・・・ですよね。おっしゃる通り、高坂先生の考えが普通・・・」 「だから、まずは友達から始めないか?」 新田は目を大きくして固まる。 「俺らって【先生】と【生徒】の時しか知らないだろ?だからお互いをもっと知って、それから判断してもいいか?」 「・・・気持ち悪いとかって、拒絶しないんですか?」 「普通するかもな。けど・・・その、驚いたけど嫌だとは思わなかったから・・・」 驚きが大きすぎて、冷静になったら嫌と思い始めるかもしれないけど。 「・・・ありがとうございます」 「うわっ!」 ぐいっと腕を引っ張られ、俺は新田の腕の中にすっぽり収められる。 (あっ、新田 俺より背が高くなってる) 新田は俺の耳元に顔を寄せて低く優しい声で囁く。 「それとオレ、結構しつこいし諦め悪いんで。覚悟してください、和雅さん」 そして耳へチュッとキスをされ、俺は声にならない悲鳴を上げた。

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