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第191話
東城が気がつくとそこは病院のベッドだった。最初は鎮痛剤のせいか頭が全くまわらず、なぜここにいるのかさえわからなかった。
後で聞いた話では、堀口は、足はうたれたものの命に別状はなかった。出血が多かった東城の方があぶなかったらしい。
そして、誰から事情を聞かれても、東城は事故だったのだ、といいはった。広瀬が持っていた銃になんらかの不具合があったのだ、と。広瀬が自分の意思で撃ったのではない、と。
撃った本人の広瀬が、行方不明だということを教えてもらえたのは、起き上がれるようになってからだった。
それまでは広瀬も入院しているといわれていた。
東城が回復する前に知らせたら、動けぬ身体で無理をして病院をぬけだしかねないと思われたのだ。
そしてその配慮は正しかった。東城は広瀬がいないことを聞くと、すぐに退院することを病院のスタッフに告げたのだ。
広瀬を探さなければ、と思った。
東城が撃たれた後、駆け付けた竜崎がすぐに救急車や応援を手配した。
聞いたところによると、救急車や応援が到着するころまでは、広瀬は、自分が撃って意識を失った東城の近くで茫然としていた。
だが、救急隊員や応援の刑事が大勢入り込み、騒然とし始めた現場の混乱の中で、いつの間にか、姿を消していたらしい。
心神喪失していた状態で、血だらけだったことから、一人で抜け出したとは考えにくいということだった。
東城は退院し、自宅に帰った。
だが、そこにも当然広瀬の姿はなかった。
一緒に暮らしていたときのまま、全てが残っていた。広瀬の服も、靴も、大切にしていた両親との写真も、全てそのままだった。
ここに帰ってくるつもりで家を出たはずだ。朝、出勤するのと同じように出かけていったのだ。なのに、どうして戻ってこない。
どこを探しても、彼はみつからなかった。忽然と消えてしまったようだった。
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